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【阪神JF】アルマヴェローチェが2歳女王に 中距離向きの能力も問われるタフなレースに

  • 2024年12月09日(月) 18時00分

1600m以上で好成績の馬が上位を独占


重賞レース回顧

阪神JFを制したアルマヴェローチェ(c)netkeiba


 京都で行われた今年は、開催が連続し外差しの効く少々タフな芝コンディションで行われたため、前後半バランス「46秒5-46秒9」=1分33秒4。マイル戦ながら、持続力の必要な平均スピードが問われた厳しいレースとなり、スピード能力が最重要なマイル適性が問われただけでなく、中距離戦向きの総合能力が問われる結果になった。

 快勝したアルマヴェローチェ(父ハービンジャー)は芝1800m「1、2」着馬。2着したビップデイジー(父サトノダイヤモンド)は「1600m1着、1800m1着」の2連勝馬。3着テリオスララ(父シスキン)は1800m「2、1、1」着馬。1600mを超える距離を経験し、かつ、好成績を残していた馬が上位を独占する結果となった。

 例年の阪神JFの結果は、4月の桜花賞に直結しているが、今年の結果は桜花賞だけではなく、いつもの年以上にオークスに結びつくかもしれない。

 勝ったアルマヴェローチェはハービンジャー産駒で、母の父ダイワメジャーの配合形はナミュールと同じだが、タフな能力を問われた重馬場の札幌2歳Sを牡馬マジックサンズ(父キズナ)のハナ差2着。母方はスピード系に映るが、今回のペースを抜け出して完勝したのだから、距離延長はそう苦にしないかもしれない。この快勝は今回のデキの良さや、展開に恵まれてのものではない。展望は大きく広がった。

 阪神JFは力強いマイラー体型の馬格のある馬有利とされる。小柄な馬が勝つこともあるが、2013年のアユサンから今年のアルマヴェローチェまで、これで12年連続して馬体重「460キロ以上」の馬の12連勝となった。

 追い込んで2着のビップデイジーの内容も立派。この馬場では決して有利ではない内枠のため、直線までずっと内で我慢。直線に向くとコースロスを承知で馬群をかき分けるように外に回ったベテラン幸英明騎手(48)の老練な騎乗が光った。ファミリーはダートチャンピオンのアロンダイト、クリソライト、女王杯のマリアライトが代表するキャサリーンパーの一族。こちらは小柄でもタフな成長力が真価だった。

 好位追走からバテなかった3着テリオスララの牝系は、シュヴァルグラン、ヴィルシーナなどが代表するハルーワソングから発展するファミリー。切れ味が真価の一族ではないが、今回の阪神JFのように勝負強いタフな底力が求められるレースになったら簡単に弱音を吐くことはない。そんな印象の渋いレースだった。これから一戦ごとに成長していくはずだ。

 近年、評価急上昇の「アルテミスS」組は、当時3着だったショウナンザナドゥ(父キズナ)は0秒5差の4着にがんばったが、1番人気のブラウンラチェット(父キズナ)は直線ギブアップして16着の大敗。アルテミスSの快勝を評価されたが、中間から馬体が減り気味で、今回は前走比12キロ減の428キロ。切れそうなシャープな馬体に見えなくもなかったが、成長して欲しいこの時期に大幅な馬体減は痛い。スローペースで切れ味が発揮できた前2戦と異なり、今回は遠征の負担があって、総合力の求められたマイル戦。大きく期待を裏切る惨敗になってしまった。

 桜花賞まで4カ月あるが、立て直すには心身のリフレッシュ期間が求められる。期待の良血馬にこれ以上のダメージを与えるわけにはいかない。苦しい状況になってしまったが、無理はできない。まだ、2歳の12月。陣営には、長期展望に転換の必要が生じた。

 ミストレス(父キズナ)も、マークはきつかったとはいえ、前半1000m通過58秒5の平均ペースで先導したにしては案外の失速だった。だが、アルテミスS組3頭の父キズナは、3月の弥生賞で5着にとどまり追い詰められたあと、短期間に毎日杯→京都新聞杯を連勝して勢いに乗って日本ダービーを制している、近年では珍しいタフな成長過程を見せた馬。評価の高かったアルテミスS組の上位3頭の中には、年が明けて急激な上昇カーブを見せる馬がいて不思議はない。

 異例の挑戦で、期待と注目を集めたアメリカから遠征のメイデイレディ(父タピット)は、若い2歳馬の遠征の難しさと、異なるレース形態に対応することの難しさを、残念ながら露呈してしまった。珍しく好スタートで流れに乗ったように見えたが、あの気負って先行の形はこれまでの4戦と大きく違っていたのだろう。

 この日、香港に遠征した日本馬も、先に米BCシリーズに挑戦した多くの日本馬もみんなそろって敗けている。ただ、不安や死角はあっても挑戦しないことにはより高いレベルを求めることはできない。もともと国境のないサラブレッドに課せられてきた、より強い馬に挑戦のテーマがなくなりかねない。わたしたちのスポーツと同じこと。これからもずっと果敢な挑戦が続くことを歓迎したい。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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