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騎馬隊で10年間任務を遂行…これからはのんびりと二人三脚でトウショウシロッコと交わした約束(2)

  • 2024年12月25日(水) 18時00分
第二のストーリー

▲白老ホースフレンドファームにて余生を送るトウショウシロッコ(提供:上坂由香さん)


 預託先探しが思いのほか難航していたトウショウシロッコに「警視庁騎馬隊」という道が突如示された。上坂さんがトウショウシロッコの預託の相談した養老牧場のローリングエッグスクラブには、当時警視庁騎馬隊を除隊したテンジンショウグン(日経賞優勝馬)が余生を過ごしていた。ライターとして活動していた上坂さんは、その様子を取材して競馬週刊誌に記事を書いた。その縁がシロッコのセカンドキャリアへと繫がろうとしていた。

 重賞タイトルに一歩届かなかったシロッコ。上坂さんにとってシロッコは既に我が子同然だった。

「栄誉ある称号を与えてあげたい、箔をつけてあげたいという母心もあって、警視庁騎馬隊入隊を目指すことにしました」

 騎馬隊入隊には様々な条件があった。馬列が美しく保たれるように馬格が大き過ぎず平均的なこと、安定した気質や治療中の故障がないことなどが求められた。さらに騎馬隊の警察官が乗った感触を確認。シロッコはそのすべてをクリア。入隊するにあたっての手続きは認定NPO法人引退馬協会が協力してくれて、シロッコは晴れて警視庁騎馬隊の一員になった。

 騎馬隊では「颯駿(そうしゅん)」という馬名を与えられ、交通安全のパレードや皇居の警備などの任務ををこなした。

「年に1回くらい騎馬隊に(シロッコを)よろしくお願いしますとか言いながら会いに行っていました」

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▲騎馬隊時代のトウショウシロッコ ※中央(提供:上坂由香さん)


 特別にその背に乗せてもらうなど、つかの間の時間を楽しんだ。

 騎馬隊入隊から月日が流れ、シロッコの除隊するという知らせが2023年春にもたらされた。体調を崩し仕事をセーブしていた上坂さんはすぐに引き受けられる状況ではなく悩んだ時期もあった。だがほどなくして体調が回復して仕事ができるようになり、シロッコとの約束を果たすために引き取りを決めた。

 上坂さんは厩舎生活の長いシロッコに合った預託先として白老ホースフレンドファームを選んだ。名前通りフレンドリーかつ自由な雰囲気も気に入った。放牧地は広く、皆のびのびと暮らしている。放牧だけではなく乗馬ができるのも、人を乗せて仕事をしてきたシロッコには良いのではないかと考えた。

 東京を後にしたシロッコは、2023年11月25日に白老ホースフレンドファームに到着。

「翌日会いに行ったら最初はすごい怒ってました(笑)。首を高く上げて私を睨みつけてね。まあまあまあってなだめましたけど。多分馬運車が長過ぎるって怒ってたのだと思います」

 騎馬隊では交通パレードや警備でアスファルトの上を歩いていたので、土や草の上を自由に歩かせてやりたいというのが、上坂さんの願いだった。その願い通りの日々をシロッコは過ごしている。

 およそ10年の間しっかり任務を遂行し、最後には馬たちのリーダー的存在でもあったシロッコは、騎馬隊にとっても大切な存在だったのだろう。

「今年の夏は騎馬隊の方たちがわざわざ会いに来てくださって、ありがたいなと思いました」

 競走馬時代、休養先のトウショウ牧場で初めて出会った時と今のシロッコは性格的に全く変わっていないと上坂さんは言う。

「甘えるタイプではなく、どちらかと言えばツンとしています。愛想はないのですけど、話しかけているとうん、うんって人の声に耳を傾けているような。わかった、わかった、うるさいなみたいな感じで。この間亡くなった同期のメイショウサムソンみたいに優しくて丸くて...というタイプではなく、どっちかというとビシッとして凜としています」

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▲ビシッとしたタイプだというシロッコ(提供:上坂由香さん)


 ホースフレンドファームの放牧地でも厳しさを見せることもあるという。

「若い馬がシロッコにちょっかいかけるとめちゃくちゃ怒って、うるさいっていう感じで、尻っぱねして追い払って絶対負けないみたいです」

 それでも上坂さんが呼んだら、ちゃんとそばに来る可愛らしいところもあるそうだ。

「人参持ってないとか用がないとわかると、プイッとどこかに行っちゃいますけどね(笑)」

 シロッコが白老に来て1年が経過した。競馬から騎馬隊とずっと仕事をしてきたこともあり、しばらくはゆっくりさせた。

「1年休養させたので、来年の春くらいから鞍をつけて乗ってみようかなと。あとお客様やシロッコのファンの方にも会いに来てもらって、引き馬でもいいので乗ってもらいたいなとも思っています」

 いつか本当に走れなくなったら、私が迎えに来るから──。トウショウシロッコとの約束を叶えた上坂さん。シロッコとの本当の意味での二人三脚の日々は始まったばかりだ。

(了)

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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