今年も人気薄の伏兵が激走

NHKマイルCを制したパンジャタワー(撮影:下野雄規)
大きな波乱は「道悪」の際に出現しやすいが、今回の大波乱は「超高速馬場」が最大の要因だった。確たる逃げ馬がいないので、それほど速いペースにはならないのではないか、と考えられたが、レース全体の流れは前半「33秒4-44秒6」後半は「47秒1-35秒3」=1分31秒7。先頭馬の前半1000m通過は「56秒4秒」だった。
2010年にダノンシャンティが記録したレースレコード1分31秒4の際がレースの前後半「44秒8-46秒6」。1000m通過56秒3だったので、前半1000m通過はレース史上最速ではないが、前半「44秒6」は史上最速だった。
結果、前後半の差が「2秒5」も生じる流れになり、とてもではないが先行タイプは粘り込めない。「1、2、3」着馬は、みんな前半は中位より後方に位置していた馬だった。
レース前から気負い気味だった1番人気のアドマイヤズーム(父モーリス)は、先行してこの流れに巻き込まれてしまった。残念ながら道中で落鉄の影響もあったとされるが、自身のタイムの中身は「前半1000m通過56秒7」。数字通りきびしかった。
これをマークしていた2番人気のイミグラントソング(父マクフィ)の1000m通過も「56秒9」。まだキャリアの浅い3歳馬が東京のマイル戦を前半56秒台で通過する形になってはたしかに苦しい。
勝ったパンジャタワー(父タワーオブロンドン)は、素晴らしいデキだった。でも今回の激走はフロックではない。父はたしかにスプリンター色が濃かったが、マイル戦にも好内容があった。パンジャタワーは父と同じように1400mの京王杯2歳Sを制したが、父以上にこなせる距離の幅は広く、かつ、父以上の才能に恵まれているかもしれない。
3着チェルビアット(父ロードカナロア)も再三の不利を克服して6着に突っ込んだ桜花賞の内容は本物だった。今回も直線で狭くなってはさまれるロスがあったが、アタマ、ハナ差の惜敗。ゴール前は勝ったかと思えるほどの鋭さだった。
レース再生を見て驚くのは、前半置かれて後方17番手にいたマジックサンズ(父キズナ)の武豊騎手はおそらく異常なハイペースを察知していたのだろう。下げて進むのは作戦通りとしても、馬群に取り付こうとする動きをまったく見せなかった。そこで最後の直線で猛然と伸びた。上がり33秒7は断然最速。
大接戦の結果を分析するのは難しいが、アドマイヤズームの落鉄は別にして、人気の2頭と同じような位置にいた5着ランスオブカオス(父シルバーステート」は、「57秒0-35秒0」のバランスでゴール寸前まで伸びている。また4着モンドデラモーレ(父ワールドエース)も「57秒1-34秒7」のバランスで1分31秒8。最後まで伸びていた。2頭は確実にパワーアップしていた。明らかに人気の2頭を上回る内容だった。
3歳馬は一戦ごとに変わっていくのが望ましい成長パターン。つれて勢力図もどんどん変わる。アドマイヤズームに12月の朝日杯FSで完敗したミュージアムマイルが皐月賞を勝った。だから、アドマイヤズームは強い。という見方はふつうなら半分正解だが、半分は不正解。12月からもう4カ月以上も経っている。現在、その2頭が対戦したらミュージアムマイルが先着する可能性が十分にある。実際、そのアドマイヤズームに勝ったことで評価の上がったイミグラントソングも今回は案外だった。
それにしても近年のNHKマイルCは難解。これでこの10年間、各年の3着以内に好走した馬のうち、もっとも人気薄だった伏兵は、順に「12、13、9、14、9、7、18、9、10、12」番人気馬となった。3連系の馬券に順当という結果はまったくない。