直線では強い向かい風の影響も

府中牝馬Sを制したセキトバイースト(撮影:下野雄規)
荒れるハンデ戦「GIII・マーメイドS2000m」を引き継ぐ形になった6月の「府中牝馬S」は、当然のようにハンデ54キロ以下の軽ハンデ馬が上位4番人気までを占めた。
レースの流れは、東京の1800mとあって前後半の半マイル「47秒2-(11秒7)-47秒1」。予測された通り典型的な平均ペースに落ち着き、前半1000m通過は「58秒9」。少しも厳しい流れではなく各馬ともに余力はあるように映ったが、最後の直線に強い向かい風が待っていた。そのためこのペースなのにレース上がりは「35秒4」。
この展開なら軽ハンデ馬は33秒台後半か、34秒前半で伸びても不思議はないが、最速の上がりは最後方から差を詰めたウインエーデル(父リオンディーズ)の34秒6にとどまり、フルに切れ味を発揮できた軽ハンデ馬は出現しなかった。
勝った5番人気のセキトバイースト(父デクラレーションオブウォー)は、好位でこの流れに乗り、快勝した前走と同じように直線に向くと早くも先頭に立とうかという勢い。前走の圧勝で本格化を確信していた浜中俊騎手は、そう切れる馬ではないので早めのスパートでしぶとさ全開に出た。向かい風で後続の切れが鈍った幸運もあるが、この風の中でライバルの格好の目標になる早め先頭は、実際はもっとも苦しい立場に立ったわけで、55.5キロのハンデを克服して押し切ったこのレースは実力勝ちだったといえる。
父デクラレーションオブウォー(16歳)はランキング上位の種牡馬ではなく、日本ではこのセキトバイーストが、シランケド、タマモブラックタイ、セットアップに続く4頭目のGIII勝ち馬になったばかりだが、産駒は世界10カ国以上でグループレースを勝っている。さまざまな状況変化に対し優れた適応力を示す種牡馬として評価は高まるはずだ。
初めての重賞挑戦で2着したのは3番人気のカナテープ(父ロードカナロア)。最後は勝ち馬と脚いろが一緒になってしまったが、これで東京の芝[4-4-1-1]。一時は450キロ台になったこともある馬体が、今回は自己最高の484キロ。6歳牝馬だが、大事に使われているだけにパドックでも元気いっぱい。今回の2着は価値がある。
まだ3勝クラスだが、強気な挑戦で3着に突っ込んできたのは4歳ラヴァンダ(父シルバーステート)。受け継いだ旧マーメイドSで再三みられた条件馬の快走だが、ハンデ54キロで2番人気。秋華賞4着、阪神牝馬S3着など、あと一歩で賞金加算がかなわなかった実力馬だけに、また今回も賞金加算には至らなかったが、次走では「格下馬」などとされない快走が見られるかもしれない。
2勝クラスを勝ち上がった直後のカニキュル(父エピファネイア)が1番人気に支持されたが、残念ながら8着。再三の休養があって今回がまだ9戦目。ラヴァンダと同じで、こういうタイプが快走するとマーメイドSの傾向をそのまま引き継いだことになるが、同じハンデ戦とはいえ、東京の1800mは、阪神の内回り2000mとは求められるものが異なるということだろう。折り合いがカギになるこの馬に、今回は1800mの外枠、落ち着いたペースなど、不利な状況が重なってもいた。
GIIIのハンデ戦になった府中牝馬Sは、来年も出走馬の比較の難しいレースになることだけは間違いなさそうだ。