お金、名声、欲望が私の人生をダメにした。ハリウッドは、私の人生の最も素晴らしい時代を浪費したところと、その昔、多くの映画に主演し、マレーネ・ディートリッヒとトップの座を競ったハリウッドの伝説の美貌女優、グレタ・ガルボは取材記者に語ったと伝えられている。36歳で引退し隠遁(いんとん)生活に入り、生涯独身を貫いたという人ならではの言葉だが、その全てを得たからこそ発せられたもので、人生をダメにするほどお金も名声も得ていないし、欲望も満たされていないというのが普通だ。
果たして、この三つの中でどれが一番ほしいか、それを考えるのがせいぜいというところか。しかし、この言葉、なんらかの示唆に富んでいる。何よりも競馬にて然りだ。ちゃんと三つの要素が含まれている。程度の問題があるにせよ、この三つの誘惑はなかなか手強い。どのひとつも我関せずなら、競馬に近づく筈がないではないか。こんな風に思いつつも競馬に散財しすぎると、時を浪費した念に襲われるのだ。ほどよくとはどの辺りぐらいなのか。ああよかったと満ち足りた思いに、一度でもいいからなってみたい。多くはそう思っているのではないか。
例えば、桜花賞。阪神の外回りのマイル戦は、このような傾向になっている。だから今年の有力馬の中では、この馬が一番安心して見ていられると、取り合えずの方向性が見い出せたら、かなりのところまで来ているのではないか。お金、名声、欲望を満たすところまでは到底及ばずとも、解明の糸口が見つかった満足は、あっていいと思う。納得して桜花賞に取りかかる、考え方の筋道ができることで、結果の受け止め方にも幅ができる。いわゆる味わいという奴だ。懐だって深くなる。いい雰囲気の競馬通という風情。ここから得るものは大きい。言ってみれば財産のようなもの、立派な競馬の財産だ。素晴らしいまで行かずとも、楽しい位の気分になる。