状態が余程良かったのは側にいてよくわかった。何しろ、桜の小枝に飛び付こうとするんだから。これは、かつてダービーを勝ったダイシンボルガードの大崎騎手が言っていたこと。また、大人気のハイセイコーを下してダービー馬になったタケホープの嶋田功騎手は、馬房を覗いていて日に日に成長していくのが見て取れた。あくびが出ていたのがその証拠とうち明けてくれたことがある。
春から初夏へ、若木がすくすくと成長するように若駒も成長する。
昭和40年代、ダービー取材で耳にしたこの言葉は、この時期になるといつも思い出してきた。ダービーを考えるとき、特に生き物としてサラブレッド、その側面を探らなくして何が検討かとまで思っている。
出走枠に入るのが難関で、生涯に一度の大一番だから、どの陣営だってそこに辿り着くことに腐心する。鍛錬に鍛錬を重ね、それに耐え抜く心身の強さ、そして成長する力。ギリギリのところで決め手となるのが、その馬のその時の状態だ。
誰の目にも、素質素養で他を圧しているならともかく、そういう馬は10年に1頭しか出て来ない。なるべくなら、当事者の証言がほしいが、それが困難なら、極力類推して納得出来るようにしておきたい。
今年のダービー馬ディープスカイには、優勝の裏付けとなるものがいくつかあった。何よりも、6戦目に初勝利し、毎日杯、NHKマイルCと連勝して11戦目がダービー。ハードに追えるようになって成績が上がり、ダービー当日はそれでも馬体重が増えるという充実ぶり。どのように上昇カーブを描いていったかが、手に取るようにわかった。
ヒーローがめまぐるしく変わっていたこの春、力で圧倒するレースが無かった混戦模様が続いた末の檜舞台だったからこそ、状態、成長力重視のダービーだったと得心している。机上の推理は適用しないのが競馬なのだ。