それは昨年の4月22日。取材のため訪れた某厩舎の大仲(休憩や打ち合わせをする場所)で、なぜか酒盛りが始まってしまった時の話だ。
「俺の夢ね…。そうだな。孫と一緒にレースすることかな」
声の主は関東のレジェンドジョッキー・
横山典弘である。気難しさもレジェンド級…いやいや、栗東に出向いて調教をつけたこの日は超ご機嫌だった。缶ビールをたらふく飲みながら「きょうだけは何でも聞いていい」と言うので、ここぞとばかりに質問攻めをさせてもらったのだが、将来の夢や人生観、失敗談やら…とにかくざっくばらんに答えてくれた。
ビールの空き缶が積み上がり、だんだんとろれつが回らなくなってくる。ただ、競馬学校に在籍している三男の話題になると、急に真面目な顔つきに戻ってこう言ったのだ。
「あいつはマジで“ヤバい”から覚えとけ。恐らく、相当なもんになる」
今月5日、東京競馬場で競馬学校騎手課程第33期の第4回模擬レースが行われた。勝ったのは
横山武史君(17)。残念ながらレースを直接見ることはできなかったが、好スタートを決めて見事に逃げ切ったそうだ。「父には4コーナーで膨れたことを厳しく言われました。褒められることはなかったです。きょうは改めて、競馬の難しさや父のすごさが分かりました」。何とも殊勝じゃないか。これで模擬レースは第2回(2R目)、第3回に続いて3連勝。父親が言う通り、腕は確かということだ。
時は再び昨春に戻る。武史君が優れているのは具体的にどの部分なのか。その問いに、JRA・G1・25勝を誇る名手は「プロ向きな性格」と簡潔に答えるにとどめ、続けてこんな持論を述べていた。
「俺が思うに、約10年なんだ。調べたら分かるけど、トップになれるような才能を持つジョッキーってのは、大体10年ごとに現れているんだよ。周期的に、ウチのやつもそれに当てはまる」
横山典ら競馬学校2期生は1986年、
武豊ら3期生は1987年にデビュー。30年の時を経た来年の3月、33期生は大志を抱いてターフへ繰り出す。「父のように、ファンを楽しませられるようになりたい」。模擬レース終了後にそう誓った武史君が将来、どんな活躍を見せてくれるのか。今から楽しみだ。(デイリースポーツ・長崎弘典)
提供:デイリースポーツ