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桜花賞の1週前登録を見て、少々驚いたことがある。担当の加藤和キュウ舎
ブラックオニキスの名前がそこになかったことだ。もしや故障? そんな疑念を
加藤士津八助手にぶつけると、真逆の答えが返ってきた。
「いいえ、馬は無事、というか前走よりいい雰囲気です。それでも登録しなかったのは花より実を取ったというか、より上位に来られるレースで、馬にきっかけをつかませたかったから。
桜花賞が一生に一度の晴れ舞台なのは確かなんですけどね。今年はあまりに周りが強力で、夢を見る隙もなかったというか…」
同馬は出走可能な賞金(1800万円)を持ちながら
桜花賞を回避。同週の阪神オープン・
忘れな草賞(芝内2000メートル)と中山GIIニュージーランドT(芝外1600メートル)に登録した。仮にも牡馬相手に重賞(
札幌2歳S)で2着した馬さえ戦意を喪失するハイレベルな組み合わせ。それが今年の
桜花賞なのだろう。GIII
フラワーCを史上最大着差(5馬身)で圧勝した
ファンディーナが牡馬相手の
皐月賞に向かうのも、より高い可能性を求めたゆえの帰結だ。
忘れられない言葉がある。今から10年前、07年
桜花賞で、松田国英調教師が戦前に放ったひと言だ。
「普通の年なら自信を持って“勝てる”と言えるレベルの馬です。でも、今年はそんな馬が複数いる。他陣営もきっと同じような思いでいるんじゃないですか?」
送り出したのは、後にGI4勝を挙げる
ダイワスカーレット。そんな女傑にさえ脅威を感じさせたのは、前哨戦
チューリップ賞でクビ差負けした
ウオッカだった。本番は1馬身半差で快勝したが、そのラ
イバルは同年ダービーで牝馬による64年ぶり制覇の偉業を達成。その後、
天皇賞・秋、
ジャパンCなど古馬GIを5勝する歴史的名牝へと上り詰めた。つまり、その
桜花賞こそ、以後3年の競馬シーンを占うターニングポイントであったのだ。
おそらく今年も「普通の年なら」と歯ぎしりする関係者は何人もいるだろう。
そんな黄金世代が激突する
桜花賞は、17年のベストバウトになる可能性さえ秘めている。週末の関西地区は現状傘マークのある予報が出ているが、大一番はぜひ良馬場でと今は願うのみだ。
(美浦の宴会野郎・山村隆司)
東京スポーツ