「
天皇賞(秋)・G1」(29日、東京)
雨中の激戦を見届けた北島三郎オーナー(81)は「感激です」と声を震わせた。愛馬
キタサンブラックが、1番人気に応えて6つ目のG1を奪取。出遅れも、26年ぶりの不良馬場も何のその、最後は懸命に追いすがる
サトノクラウンを首差封じた。既に年内での引退を発表しており、残すは連覇の懸かる
ジャパンC(11月26日・東京)と、三度目の正直で初Vを狙う
有馬記念(12月24日・中山)のみ。史上初のJRA・G1・8勝目を狙っていく。
口取り写真の直前、6個目のG1勝利を成し遂げた愛馬と対面した瞬間、オーナーの北島三郎は万感の思いを抑え切れなかった。
キタサンブラックに向かって歩み寄り、両手を大きく上に伸ばし、最大級の笑顔で迎える。そして
武豊と勝利のハイタッチを決めて握手。過去のG1勝利で「ファンへの感謝」として「まつり」を歌うパフォーマンスはあったが、大勢の前で自身の喜びだけをここまでストレートに表現したことは初めてだった。
感極まるレースだった。スタートから好位につける横綱相撲で勝ち続けてきた馬が、スタートで出遅れ。だが、そこから名手の巧みな手綱さばきで勝利をたぐり寄せた。「最初はどうなるかと思った」と振り返るが、出遅れには「われわれも歌っていてタイミングが合わないときがあるよ」と笑い飛ばし、「きょうは武さんが腕の達者なすごいところを見せてくれた。導いてくれた」と賛辞を送った。
レースぶりに加え、この秋3戦をもって引退する同馬との思い出も頭に浮かんだ。常々「神様からの贈り物」と称する同馬は、自身の激動の時期に心の支えだった。
本業の歌手で13年に紅白歌合戦を卒業。15年1月に劇場座長公演を退いた。一線から身を引き始めた15年1月31日に、この東京競馬場からブラックの競走馬人生が始まったのも何かの縁だ。
15年の
菊花賞で50年以上の馬主生活で初のG1制覇をもたらし、16年の頸椎(けいつい)性脊髄症の手術直後には
ジャパンCを勝利。「体調が本調子でない時に、贈り物みたいに走ってくれた」。現在もまだ体調は万全でない。公表はしていないが、今年の夏には目の手術も受けていた。それだけに、今回の激走も大きな励ましとなったのだった。
一緒に歩む戦いも残すは
ジャパンC、
有馬記念の2戦。「デビューしてからいい成績を残してくれて夢をくれた。終わるのはさみしい。最後は無事に走ってくれればいい。でも1着は欲しいな」-。年末の大一番までブラックとともに駆け抜ける。
提供:デイリースポーツ