毎週、金曜日のデイリースポーツ紙上で『夢駆ける新馬』というコーナーを掲載している。「この馬どう?面白い血統やで」。先月、候補馬を挙げる段階で、後輩記者にこう提案するも見向きもされず、あっさりと却下された馬がいる。
ディープインパクト産駒でもなければ、G1馬のきょうだいでもない。はっきり言って血統は地味だ。それでも、その背景にロマンがある。母の馬名から名付けられた鹿毛馬。
マリオ(牡2歳、栗東・
安達昭夫厩舎)である。
厩舎の結晶だ。父、母、祖母はそろって
安達昭夫調教師が手掛けている。父
エスポワールシチーは、厩舎に初のG1タイトルをもたらした功労馬。JRA・G1は09年JCダート、10年
フェブラリーSの2勝。交流G1は09、10、12年の
かしわ記念に、12、13年の
南部杯連覇など7勝。10年には当時の米国最強馬ゼニヤッタが出走した米BCクラシックへ果敢に挑戦(10着)した。日本が誇るダート界の名馬だ。
母系にも引かれる。祖
母ヤマトプリティは定年解散した斉藤義美厩舎から、安達厩舎が引き継いだ馬だった。厩舎開業は00年3月。その初陣を務めたのが
鳴門S出走(2着)の
ヤマトプリティ。そんな思い出深い
ヤマトプリティの子が、
マリオの
母ヤマトマリオンだ。ダートで2勝を挙げたあと、芝に参戦。06年フ
ローラSを10番人気で勝利した。その後しばらくは勝てないレースが続いたものの、ダートに戻した東海Sでいきなりの重賞制覇。13番人気と、またも人気薄での美酒だった。芝、ダート合わせて四つの重賞タイトルを手にして11年2月に繁殖入りした。
ヤマトマリオンの引退から3年後。ちょうど種牡馬デビューを果たした
エスポワールシチーとの配合で誕生したのが初子の
マリオ。「初子は小さい馬が出るからね。馬主さんにも安くて負担のかからない馬を、と思ってお薦めしたんです」と安達師。想像していたよりも大きな馬が産まれたのはうれしい誤算だった。
10月29日に行われた京都の新馬戦。
マリオはダート1800メートルでデビューした。ゲートがひと息で出脚も鈍く、後方待機。直線はいったん前が壁になったが、外へ出したラスト1Fからが強烈だった。抜け出す脚が速く、見事に勝利を飾った。トレーナーは「使っていけば、どこかで走ってくるとは思っていたけど、新馬戦でこれだけ走ってくれるとは。うれしいですね。センスがある」と喜ぶ。
父と母。どちらに似ているのだろうか。「母の性格はきつかったけど、この馬は父に似ておとなしい。ピリピリとしないし、根性がある。首の使い方は母に似ていますね。父は胴が詰まっていたけど、この馬は
バランスがよくて馬体に延びがある」。性格は父譲り、走法は母譲り。馬体はどちらにも似ておらず、
マリオ特有のものだろうか。
ディープインパクト産駒もいいだろう。重賞戦線で好成績を残す
キングカメハメハ産駒や、2歳戦で早くも重賞2勝を挙げる
オルフェーヴル産駒も人気を集める。ただ、厩舎の思いが込められた、こういう血統も味があって応援したくなる。次走に予定している、
もちの木賞(11月18日・京都)もぜひ注目してほしい。(デイリースポーツ・井上達也)
提供:デイリースポーツ