グランプリ・
有馬記念で競走生活のフィナーレを迎える名馬は少なくないが、その後の種牡馬入りを考えた時、ある“邪推”が頭をよぎる。
「無事にレースを終えることが第一で、無理をしないのではないか?」
そんな考えを真っ向から否定するのは、2013年に
オルフェーヴルで有終の美を飾った池江調教師だ。
「今は種牡馬の
サイクルも早いので、1年目から結果を出さないといけない。そのためには、引退レースでも結果を出すことが重要。その結果が1年目の評価に大きく関わってくることになる」
調教助手として携わった
ステイゴールドは、引退レースの
香港ヴァーズ(01年)を勝ったことで一気に種牡馬としての評価が上がったそうだ。
「海外で
ドバイシーマクラシックを勝ってはいたけど、当時はまだGIIだったからね。最後に香港でGIを勝った。そのひと晩で、種付け料がグンと上がったんだ」
オルフェーヴルのラストランも、ズブさが出て調教自体は動かなくなっていたものの、「勝ってさらに箔をつけ、種牡馬入りさせる」という強い意志の下、きっちり仕上げたという。
今年の
キタサンブラックの場合はどうか? 関係者の話を聞くまでもなく、調教内容を見れば、この
有馬記念にかける意気込みはヒシヒシと伝わってくる。1週前追い切りでは、珍しく調教パートナーの黒岩がゴール前、ビッシリ追うアクションを見せた。
「僕があれだけ追ったのは久々。多分、去年の秋以来じゃないですかね。今回は、もう次を考える必要がないですから」
上半期のGI3連戦のラスト=
宝塚記念でガス欠(9着)してしまったことを踏まえ、この秋、黒岩は有馬までの余力を残すため、あまりビシビシやり過ぎないよう、清水久調教師に進言した。その分のお釣りが利いてきたようだ。
「さすがにGI3つ全てというのは難しいですから。でも今度はいい意味で、余力なしでレースを迎えられそうです」
次の大事な仕事=種牡馬生活が待っている馬を、ここまでしっかり鍛えることができるのは、
キタサンブラック自身が頑強な肉体を持っていることも、もちろん大きい。
「引退レースだから加減して“とりあえず無事に走ればいい”なんて気持ちはない。これまで鍛えてきて、丈夫な馬だということは分かってますから。悔いを残さないよう、きっちり仕上げます」(清水久調教師)
ラストランの後、
キタサンブラックを待ち受けるのは現役生活よりはるかに厳しい種牡馬競争。その戦いを勝ち抜くためには「
JRA・GI最多タイの7勝」はもちろん、何より
テイエムオペラオーを抜く「
JRA歴代賞金王」という強烈なキャッチコピーが、あるのとないのとでは大違いなのは言うまでもない。
(栗東の坂路野郎・高岡功)
東京スポーツ