いつの時代にも、成績だけでは測れない、規格外キャラはいるものだ。現役時も、種牡馬時代も、その“クセ”のすごさで人気を博した
ステイゴールドを知り尽くす松浪大樹記者は、その産駒の最後の
日本ダービー(27日=東京芝2400メートル)出走に予感めいたものを感じている。規格外の血を受け継ぐ
エタリオウと
ステイフーリッシュ。波乱のシナリオのカギを握るのは、この
ステイゴールド産駒2頭だ。
入厩した日から“二足歩行”をして周囲の度肝を抜き、坂路での調教では騎乗者を振り落とすこと数知れず――。
ステイゴールドの現役時を知っている身としては、逸話はいくらでも出てくる。それらを「ヤンチャ」「破天荒」という言葉に当てはめるのは簡単だが、一番の魅力は今もなお、その潜在能力が計り知れないことにある。
現役最終戦の
香港ヴァーズでGI初制覇という有終の美を飾ったとはいえ、「能力のすべてを出し切った現役生活ではなかったのではないか?」と考えてしまうのは、送り出す産駒のパフォーマンスが、自身のそれを軽々と超えてしまっているからなのだろう。
そんな不思議な面白さを持った
ステイゴールドの産駒を
日本ダービーで見るのも今年が実質的には最後(厳密には2歳世代に牝馬の産駒が1頭だけいる)かと思うと、ちょっとセンチメンタルな気持ちになってしまう。
「
青葉賞2着と綱渡りでの出走権確保ですから。偉そうなことを言える立場ではないんですけど、デビュー前の段階から、この馬はダービーに出走させなくちゃいけない。ダービーに出すことができなかったら、それは厩舎の責任と思ってましたよ」と友道厩舎の大江助手が熱弁してくれた
エタリオウこそ、その
ステイゴールドの産駒。同厩の
ワグネリアンの陰に隠れた格好にはなっているが、実は
エタリオウの評価はすこぶる高く、また
ステイゴールド産駒らしい面白い一面も持っているのだとか。
「メンタルに課題のある馬なんですが、そんな自分の弱点を上手にプラスへと変えている。例えばちょっと臆病で馬を気にするところが、競馬での反応の良さにつながっているし、走るのをやめようという気持ちを常に持っているので、無駄にスタミナを使わないんですよ(苦笑い)」
友道厩舎は
青葉賞で
エタリオウと
スーパーフェザーの2頭出しだった。惜しくも1番人気3着と
スーパーフェザーの方は出走権を逃したわけだが、「こっちは良くも悪くも計算できるタイプ。現時点での成長度がこれくらいだから、仮にダービーに出せたら、これくらいの着順だろうな、というイメージを持てたかなとも思う」
一方で
エタリオウは「どれくらい走ってくれるのか、いろいろな意味で計算できない。気を抜くと何をするかわからない破天荒なところは(同じ
ステイゴールド産駒の)
ゴールドシップみたいですよね。だからこそ普通は厳しい
青葉賞2着からの
ステップでも、魅力を感じてしまう」
ステイゴールド産駒は性格に特徴のある馬が多く、POG的には「ホームランか、三振か」。とにかく計算ができない。持っている能力は確かなものがあるのに、それを常に発揮してくれないのが何とも厄介。それはもう一頭のダービー出走馬
ステイフーリッシュにもやはり当てはまる。
京都新聞杯快勝時、矢作調教師は「前回(
共同通信杯10着)は少し追い込み過ぎた気がしたので、今回はメンタルを重視した調整にしてみた。精神的な部分がすごくいいと感じていたし、それで結果が出ると“やっぱり
ステイゴールド(産駒)だよな”と思うよね」と口にしている。
陣営が素材を高く評価しているにもかかわらず、「本当に強いのか、弱いのか、よくわからない」と周囲の評価が分かれているところは、
エタリオウに通じる部分といえようか。
その正体が見えず、雲をつかむようなところがあった
ステイゴールド。だが、彼が残してくれた産駒――
オルフェーヴルや
ゴールドシップ、
ナカヤマフェスタなどが“歴史に残る個性派”として、競馬を大いに盛り上げてくれたのは確か。
大混戦といわれる今年の
日本ダービーで、誰も予想できない筋書きを描けるとするなら、様々な驚きを与えてくれた「
ステイゴールドの遺児」ではないか。そんな思いを胸に抱きながら、今年のダービーを観戦するつもりだ。
(松浪大樹)
東京スポーツ