第85回
日本ダービーを優勝した
ワグネリアンはレース後、僚馬・
エタリオウとともに東京競馬場から直接ノーザン
ファーム天栄に放牧に出る。担当の藤本助手も
ワグネリアンに付き添って送り届けるため、天栄へ出発する前に
日本ダービーを振り返っていただいた。
レース直前、藤本助手は輪乗りをしているときに
福永祐一騎手と結構話をしていたそうだ。
「祐一さんは『結構、外差しも決まっているけど、前10番手以内のポジションが欲しい』と言っていましたね」
8枠17番から積極的に前へ動いていったのは、作戦どおりだったというわけだ。
ダービーの出走間際ではあるが比較的
リラックスしたムードで話している中で、藤本助手は笑顔でサラッと福永騎手に言った。
「祐一さん、勝ってきてくださいね」
それに対して、福永騎手は「うん」と答えた。厩舎から騎手へ、見えないバトンが受け渡された瞬間だった。
藤本助手はゲート付近から歩きながらゴール方向へ移動しながらレースを見ていた。直線で
ワグネリアンが
コズミックフォースをかわしたあたりで勝ちを意識したそうだ。
「ちょうど僕たちが見ていた位置からだと内にいる馬の様子(注:
エポカドーロ)がわかりにくかったです。でも、そのあたりで勝ちを意識しました。ゴールまではただただ叫んでいたし、ゴール過ぎて勝ったのがわかったら一緒に見ていた山田さん(
エタリオウを担当)と抱き合って喜びました」
その後、ウイニングランを終えた福永騎手を出迎えた。
「ふたりとも泣いてしまって、何を話したのかあまり覚えていません(苦笑)」
そして、激戦を走り終えた
ワグネリアンだが、今回はかなり疲れていたそうだ。
「息が入るまで結構時間がかかりましたね。しっかり走ってきてくれたのが、その様子からもよくわかりました」
そんな
ワグネリアンを曳きながら、検量室から長い地下馬道を通って出張厩舎へ戻った。
「ふたり(
ワグネリアンと藤本助手)で帰ってきたんですが、この時に一番“本当にダービーを勝ったんだな”という実感が湧きましたね」
弥生賞、
皐月賞の二戦はコース形態だけでなく、レース前夜の騒音など事前のトラブルにも悩まされた。
「今回はレースまで特に変わったこともなく順調にこれました。2歳時に勝っているように東京コースが合っているので、今度こそは、の気持ちで挑みました」
友道厩舎は
マカヒキに続く2頭目のダービー制覇となった。
「勝てて本当に幸せです」
(取材・文:花岡貴子)