「男はタフでなければ生きて行けない。優しくなれなければ生きている資格がない」
初めてこの言葉に出会ったのは、角川映画「野性の証明」だったか。当時、思春期真っただ中の当方にはかなり刺激的な宣伝文句であり、引用元となる私立探偵
フィリップ・
マーロウ=その
ハードボイルドの世界に感化されるのも時間の問題であった。とはいえ、だ。これが名セリフたり得るのもセクハラ、パワハラがやまない浮世が示す通り、そんな男が極めて希少であるがゆえ。当方も多分に漏れず、いまだ憧れが憧れのままである。
さて前振りが長引いたが、冒頭の引用は己の黒歴史をさらすためではない。今週行われる上半期の
グランプリ、このキャッチコピーこそ実はうってつけでないかと感じるからである。時期的に最もハードな古馬GI、それが
宝塚記念であるという認識が拭い去れない。
「賢い馬なので、目に見えない何かがあってレースをやめたのかもしれない」
昨年の
宝塚記念で1番人気に支持された末に9着に惨敗した
キタサンブラック。その敗因を管理する
清水久詞調教師は後にこう分析した。ぶっつけの
大阪杯を制し、
天皇賞・春をレコード勝ちした直後の極めて“タフ”な状況下。「目に見えない何か」が「疲れ」だった可能性も否定できない。偶然か、必然か。今年は
大阪杯馬も春の天皇賞馬も不参戦。ファン投票第1位に応えて出走したこと自体、思えばキタサン陣営のファンに対する“優しさ”だったのかもしれない。
今年もファン投票第1位
サトノダイヤモンドが“優しさ”を見せているが、秘める“タフさ”は近走内容から懐疑的。例年以上に難解な一戦なのは間違いないが、ふと思い出すのは
国枝栄調教師が以前に漏らしたこんな言葉だ。
「サラブレッドにとって暑さ以上につらいのが湿度。夏バテの前に梅雨バテの心配もあるんだよ。特にこたえるのが大型の牡馬。人間もそうだが、小柄なほうが意外にシャキシャキしているもの。“夏は牝馬”って言葉があるのも、気候の変化に対する生理的な強さからきているんじゃないかな」
近5年の
宝塚記念で牝馬が3→3→2・3→1→3着と軒並み馬券に絡むのは偶然か、必然か。タフで優しい男が簡単に見つからないならば…。今年も
ヴィブロス、
スマートレイアーら女たちに注目する手はありそうだ。
(美浦の宴会野郎・山村隆司)
東京スポーツ