アスリート寿命が延びている昨今、50代の現役選手は少なくない。サッカー界のレジェンド・三浦知良(51)はいまだ現役を続けており、元中日の山本昌(52)は2015年10月に日本プロ野球史上初の50歳登板を果たした。
JRAの現役最年長ジョッキー・
柴田善臣は今月30日に52歳を迎える。現状はお世辞にも現役バリバリとは言えない。
JRA通算2254勝、GI9勝という輝かしい実績を積み重ねながらも、今年は現在わずか5勝にとどまっている。冒頭の2人もしかり。明らかに全盛期を過ぎ、それに気付きながらも現役にこだわるベテランたちは、一体どう気持ちを鼓舞し、どこへ向かおうとしているのか?
美浦で調教を終え、汗だくで引き揚げてきた柴田善にそんな疑問をぶつけると、元気いっぱいの笑顔でこう答えた。
「とにかく今、毎週末に競馬に乗るのが楽しみで仕方ないんだよ。そりゃあ、昔はガツガツしていた。でも、昔みたいにガツガツしたまま、この成績なら辞めているよね。年を取って、成績がどんどん落ちていって、ある時にふと思ったんだ。
俺は今まで何のために馬に乗ってきたのかなって。そう思ったあたりから、純粋に競馬が楽しいって思えるようになり、成績だけじゃない喜びが出てきた。負け惜しみじゃないけど、ガツガツした過去があるから、今があるんじゃないかな」
我々サラリーマンにも当てはまる。血気盛んな20代、出世を夢見た30代、現実を知り始めた40代…。徐々に達観し、自分の夢を模索しながら、その中で「幸せ」を見いだしていく――。「引き際は全く考えていない」という柴田善には、かけがえのない喜びがある。
「自分が乗った馬が一戦ごとに成長していくのが本当に楽しい。ダメだった部分が次のレースでうまくいったり、教えたことが競馬で生きたりね。その過程が楽しいんだよ。それがなくなり、競馬が苦しいだけになったら…サッと辞めるよ」
馬の成長と重ね合わせるように、柴田善は愛息の未来にも胸を躍らせる。三男・陸樹さん(22)は競馬学校の受験に失敗したが、16歳から始めたバイクの世界で結果を出した。
「でも食っていけないんだ。バイクはとにかくお金がかかる。年間600万円じゃ利かないよ。それを俺が全部、面倒見てたんだからね」
そして現在、陸樹さんはボートレーサーを目指している。7月上旬に合否が出た125期は残念ながら不合格。しかし「とにかくレースが好き。“ボートに乗ったら半端なく楽しい”って」という熱意もあり、今後も継続してボートレーサー養成所の受験を続けるという。
「レースをしたいっていう血が流れているのかな。ぜひボートレーサーになってほしいね。お金? 返してほしくなんかねえよ(笑い)」
異種目“親子鷹”が誕生する日まで、ジョッキーは辞められない。
(童顔のオッサン野郎・江川佳孝)
東京スポーツ