普段、美浦にいる時はめったに耳にしないが、北海道に来ると頻繁に聞かれる言葉。それが「滞在向き」というフレーズだ。
「しっかり食べさせ、しっかり攻める。この基本ができる馬が揃ってきた」
国枝キュウ舎躍進の秘密をかつて番頭格の佐藤勝美助手に尋ねた際、戻ってきたのがこの返事。「食トレ」という言葉があるように、食べることもアスリートにとって重要なトレーニングのひとつである。
ゆえに普段その基本ができない馬にも変身の可能性を生むのが「滞在競馬」たる北海道シリーズ。気性が繊細な牝馬(特に若い3歳)がしばしば穴を出すのも、ある種の“リゾート気分”で食欲が増すからだ。
さて、今週のGII
札幌記念の出走組にも、実はリゾート地を満喫する馬がいる。
「競馬場に行くと、いつも
テンションが上がる馬。
皐月賞の時は特にひどくて、中山に到着するやレース直前まで馬房でイレ込みっ放し。馬体重はマイナス2キロでも、消耗は数字以上にあったと思います。
しかもレースは終始3頭雁行の先陣争いでしょ? よくあれで8着まで粘ったと今でも思いますよ。今回は小回りの舞台も魅力ですが、何より滞在がすごく合うと思っているんです」
こう語るのは
アイトーンを担当する川口良平助手である。牧場で爪を傷め、函館では角馬場調整から始まる一からの立ち上げになったようだが、それでも「1週前は動き、息の入りともに抜群」(川口助手)の好仕上がりに至ったのは、滞在効果というサポートがあればこそだ。
もっとも今回も
皐月賞同様、激しい先行争いを仕掛けてきそうな馬がチラホラ。その点を陣営はどう見ているのか。
「
メイショウテッコンにハナを譲った前走の
白百合S(3着)は手応えほど伸びなかった。やはり追い掛けられてこそのタイプ。
マルターズアポジーはデビューから一度もハナを譲ったことがない馬ですが、今回ばかりは強引にでも叩かせてもらいます。獣医さんからは“天皇賞に使ってもいいくらい”と言われる心臓の持ち主。そこに懸けて激流勝負に挑みたい」(川口助手)
イレ込み通しの
皐月賞の内容を思えば、馬券的には穴に狙ってみたい「滞在向き」の一頭。当方は要マークとするが、いずれにしても今年の
札幌記念は力と力、各馬ガチンコの真っ向勝負になりそうである。
(美浦の宴会野郎・山村隆司)
東京スポーツ