先週、日本人でいち早く短い手綱の騎乗
スタイルを取り入れた
福永祐一の「手綱理論」をたっぷりと紹介した。おさらいすると「日本人は外国人より手綱が長い」「短く持って馬を抱えれば脚はたまる」「長く持ってハミを外す技術は必要ない」という持論だ。さらには「外国人で一番短い」モレイラの強さの秘密も教えてくれた。
さすが理論派!という名解説であったが、これはあくまで福永が長年の経験で培った見解。まるで「短いのが善、長いのが悪」のような伝わり方になっていないか不安に感じたので、今回は対極の意見も紹介すべく引き続き複数のジョッキーを取材。長手綱の話を中心にお届けする。
では、最初に誰に話を聞くべきか…いや、迷うまでもない。
JRA通算4000勝を目前にした日本のレジェンド・
武豊しかいない。短い手綱の優位性を主張する福永でさえ「ユタカさんはかかっていく馬に対するアプローチとして、長手綱でハミを外すやり方にすごくたけた人」と舌を巻く。栗東に足を運び、長手綱の名手に話を聞いた。
開口一番、
武豊は「僕って長いでしょ? ちょっと今、わざと長くしている部分もあるんですよ」と明かした。福永の手綱理論をぶつけると…。
「確かにユーイチはそっち(短い手綱)ですね。でも、僕は馬の口にあまりハミを当てたくない方なんです。だから手綱もプラッとさせたい。日本の馬って勝手に進んでいくことが多いので、手綱が長い方がいい面もあるんですよ。まあ、今までいろいろ試して、もちろん短い手綱もやりました。(長手綱は)その中で自分が得た感覚なんです。“あれ、この長さの方が走るぞ”とか“こう持った方が動く気がするな”とか経験しながらね。短い手綱は自分には合わないし、乗りづらく感じるんです」
先週のコラムで
四位洋文や
蛯名正義も言っていたように、
武豊も「それぞれ乗り方が違うし、体の
バランスの取り方も違う。本当にいろんなジョッキーがいるので、こればっかりは正解はないと思いますよ」と主張。ちなみにモレイラも「僕は手が長いけど、人によって体形も違うので正しい手綱の長さはないです」と語っていた。実は福永自身も「スタートの出が速いのでダートの短距離戦のときは長めにしていますよ」と“条件付き”で長手綱のメリットを口にしている。
興味深かったのは「僕は長い方かな」と言う
藤岡佑介の手綱さばきだ。
「手綱を詰めると馬の口に刺激を与えてしまうので、敏感な馬は初めに短く持ってジワーッと伸ばして微調整していきます。魚釣りのリールと一緒ですよ。巻くときは動きが大きいけど、伸ばすときはスーッと緩めればいいだけなので」
なるほど、これは非常に分かりやすい!
ところで、なぜ日本人は長手綱が多くなったのか? 蛯名が説得力ある“仮説”を展開した。
「日本はパドックから馬場入りと、レースまでの時間が外国より長い。向こうは出ていってすぐにレースだからね。馬を
リラックスさせる時間が長い文化があるからじゃないですかね」
以前、
田辺裕信は「日本の馬って海外に比べて神経質。いつもイライラしている感じ」と口にしていたが、それも関係しているのか…。
2週にわたった「手綱論争」。最終的に明確な答えは出なかったが、取材の最後に
武豊は「騎手の乗り方とかもっとよく見てもらえれば、競馬はより面白くなりますよ」とニッコリ。今後もジョッキーの一挙手一投足に着目していきたい。
(童顔のオッサン野郎・江川佳孝)
東京スポーツ