異色のスターホース・
オジュウチョウサンが次週の
九十九里特別で平地2勝目へ――。と、ややベタな冒頭文を考えていた矢先、管理する和田郎調教師から「出走回避」の発表があった。「左トモの違和感のため大事を取って」がその理由だ。
実はこの発表が出た水曜の午前中は、平地連勝の可能性を探るべく、ある男を取材するつもりだった。3年間タッグを組んで障害レースで伝説を築き、平地転向とともに主戦を降りた後も、毎日のようにオジュウに調教をつける
石神深一ジョッキーだ。突然の回避で状況は一変したが、記者はむしろ石神に会いたくなった。競馬ファンの夢を背負う
オジュウチョウサンは大丈夫なのか?
有馬記念には間に合うのか? 調教後の石神にアポイントを取り、事の経緯を詳しく聞いた。
「実は1週前の時点で感じが良くなかったんです。8月下旬に放牧から帰ってきたときはいつもと変わらず“4週間あれば仕上がる”と思っていましたが、調教を積むごとに良くなるはずの馬が、調教するごとに力が入らなくなる。どこが痛いとかではなく、力が抜ける感じ。1週前でこんなにリズムが上がらないのは、3年間一緒にやってきて初めてでした」
すぐに「やめた方がいいのでは」と提案。和田郎師も歩様に異変を感じており、すんなりと回避が決まった。とはいえ、
有馬記念へ向け、さあ、ここから!という時だけに、やめる勇気もいる。それでも石神は「ごまかしながら使えないことはないですが、注目度も高いですし、こんな中途半端な状態では絶対に出しちゃいけない馬」と、自らの“分身”の無事を優先させたのだ。
単なる違和感ならいざ知らず、石神が「3年間で初めて」という状況は引っかかる。原因について石神は「ハッキリとは分かりませんが」と前置きした上でこう語った。
「まず年齢的なものではないです。今も元気ですし、いい意味で悪さもしますから。もしかすると調教の流れが変わったことが原因かもしれません。実は平地挑戦の後から一度も障害の練習をしていないんですよ」
オジュウは石神とタッグを組んでから3年間、同じ日課を繰り返した。「水曜に追い切り、木曜は楽なメニュー、金曜に障害を飛ぶ」。この鉄板ルーティンが崩れたことで何かしらの狂いが生じたのではないか?
「オジュウは障害の練習をしながら体をつくってきました。いつも使っていた筋肉を使わなくなって硬さが出てしまい、
バランスが崩れたのでしょうか…」
もちろん、この“仮説”は石神も半信半疑だ。また障害の練習ができなくなったのは、あくまで石神とオジュウの日程の都合。「平地挑戦後も障害の練習を続けるつもりでしたが、僕がケガをしたり、他の馬との兼ね合いで行けなかったり…」と石神は説明する。いずれにせよ「金曜の変化」がカギを握る可能性が高い。
有馬記念を目標に掲げるオーナーやファンの盛り上がりに水を差すつもりはない。ただ、記者にはどうしても
オジュウチョウサンが「オレは障害を走りたいんだ」と必死に訴えている気がしてならない。果たして今回の“違和感”がそのメッセージなのか。オジュウが年末、
有馬記念と
中山大障害のどちらを走っているかがその答えとなる。
(童顔のオッサン野郎・江川佳孝)
東京スポーツ