一般的に6〜7月の新馬戦を走った素質馬たちは夏競馬に向かわず、短期放牧で精神面を
リセットする選択をされる。暑い時期に無理をしなかった彼らの多くがターフに戻ってくるのは、本格的な競馬シーズンになる秋の東京、京都開催である場合が多く、それは特別レースが増え、重賞も毎週のように行われる番組的な背景に起因している部分が大きい。
もっとも、単純にタイミングがいいという理由もある。暑い時期を避け、9月にトレセンに帰厩。すでに3歳未勝利馬のほとんどが抹消され、馬房の空きも出ている頃合いだ。9月のレースを使おうと思えば、8月中にトレセンに戻ってくることになる。まだ3歳未勝利馬が健在で、なおかつGIの前哨戦で復帰させるオープン馬の動向にまで頭を悩ます時期。2歳馬の番組は、まだまだ少ないときている――。彼らの優先順位が低くなるのも当然だろう。
一方で、その状況を逆手に取ることで、少頭数の勝ちやすいレースを狙い撃ちすることができる。しかも、出走するのはオープン特別。重賞ではないが、500万下でもないところがポイントだ。クラシック当確とまではいかなくても、春シーズンの重賞出走は、それこそ選択し放題。狙ったローテーションで大一番に向かえるパスを早々に手に入れることができるのだから、これは相当に大きい。
さかのぼること1か月ほど前、「お盆も挟むことになるし、馬の入れ替えが本当に大変なんだよ」と頭を抱えていた音無調教師。戻ってくる高額条件馬だけではなく、早い段階で賞金加算をもくろむ2歳馬の割り振りに四苦八苦していたが、そのかいもあって今週は東西のオープン特別に管理馬を送り込むことに成功。土曜阪神
ききょうS(芝内1400メートル)には
ジョニーズララバイ(牡=
父マンハッタンカフェ、
母メジロアリス)を
M.デムーロ騎手で、日曜中山の
芙蓉S(芝内2000メートル)には
ミッキーブラック(牡=
父ブラックタイド、
母マラコスタムブラダ)に
ルメール騎手を配して挑む。特に後者は秋季番組が発表される前から
ルメール騎手への騎乗依頼をしていたほどで、勝負気配は非常に強い。
「
芙蓉Sは
オールカマーの日に行われることが多く、おそらくは今年もその日になるだろうと考えていた。前走の新馬戦で騎乗してくれた松山(騎手)に乗ってもらいたい気持ちもあったんだけど、同じ日の阪神に
神戸新聞杯があって、彼は重賞を勝っている馬(
メイショウテッコン)に先約があると知っていたからね。早めに依頼しておかないと、乗ってもらえなくなっちゃうだろ?」と番組を“先読み"し、ルメールに騎乗依頼したことを明かすトレーナー。
「前の週の
野路菊Sも考えたけど、この前はコーナーが4つの福島で勝ってきたわけだし、中山のようなコースのほうが合うと思ってね」とは2勝目をはっきりと意識しているからこその発言だ。
阪神の
ジョニーズララバイだって悪くはない。
「お母さんの血統が短距離馬。いずれは距離を延ばしていくことになるかもしれないけど、現状は短いところで結果を出していきたいね。前走から成長もしているし、今後に期待の持てる走りをしてほしいと思ってる」
こちらも早い段階で賞金を加算し、秋の重賞戦線につなげたいと考えている様子。東西オープン特別をダブルゲットなら、まさに“作戦勝ち"ということになりそうだ。
(松浪大樹)
東京スポーツ