前のレースの出走馬がパドックに出たころから降りはじめた雨は、第52回
スプリンターズステークスのファン
ファーレが鳴るころには小降りになっていた。
馬場状態は午前中の重から稍重発表に変わっていたが、それでも、水を含んで力のいるコンディションだったことに変わりはない。
ゲートがあくと、3番枠から出た
ワンスインナムーンがハナを切った。「スタートがよければ行ってもいいと思っていた」と言う
和田竜二の
ラブカンプーが2番手、ジョアンモレイラの
ナックビーナスが3番手につけた。
武豊の
ラインスピリット、
池添謙一の
セイウンコウセイらがつづく。
1番人気に支持された
川田将雅の
ファインニードルは先頭から10馬身近く離れた中団の外目につけた。
「思いのほか流れなかった。外の先行馬たちを行かせてスムーズにやり過ごすことはできたのですが、ほしいポジションを
アレスバローズに先にとられてしまった。そのぶん、思っていたより少し外を回る形になりました」と川田。
3、4コーナーを回りながら、川田は
ファインニードルを
アレスバローズの外に持ち出した。14着に終わった
アレスバローズの
藤岡佑介は「4コーナーで馬場に脚をとられた。もう少しいい馬場なら違う結果になっていたかもしれません」と振り返った。
だが、手応えが今ひとつだったのは
ファインニードルも同じだった。管理する
高橋義忠調教師は「3コーナーで騎手の手が動いたときは『ん?』と思いました」と言い、川田も「4コーナーの手応えはあまりいい雰囲気ではなかった」と話す。
ワンスインナムーンが先頭をキープしたまま直線に向いた。
外から
ラブカンプー、
ナックビーナスらがかわしにかかる。その直後では
ラインスピリットが隙間があくのを待っている。
それらの争いを横目に、さらに外から
ファインニードルが凄まじい脚で伸びてきた。
「直線に向いて、前との距離を確認し、ゴールまではつかまえてくれるだろうと思いました」と川田は勝利を確信した。
ゴールまでのラスト2完歩で並びかけ、最後の1完歩で差し切った。
2着
ラブカンプーとは首差だったが「着差はわずかでも、勝ち切るところがこの馬のすごいところだと思います」と川田は誇らしげに語った。
道中、思いどおりに行かなかったところはあっても、力を出せる形を整えさえすれば勝ってくれる−−そうした騎乗馬に対する強い信頼が感じられるレースだった。
(文:島田明宏)