凱旋門賞は日本の厩舎陣営はまだ誰も勝利を手にしていない憧れのレース。参戦する
クリンチャーの宮本師がフランスへ向かう前、これまでのおさらいのような取材をしました。そのときの宮本師はフォア賞での結果を引きずっておらず、すごく前向きだったのが印象的でした。
「フォア賞はどん尻負け。確かに最下位というのはネガティブなインパクトがあるので気になりますが、決して悲観はしていません。前哨戦としては着順はともかく、内容はよかったと思っています。馬自身の成長をすごく感じますね。ひと叩きは大きい。もともと叩いて良くなる馬ですし、今回もそんな感じがします。
振り返ると、負け方は昨年の
セントライト記念のときと似ていますね。レースの流れが向かなかった。
凱旋門賞本番にはもっとレースを引っ張るように逃げる馬がいると思います」
このとき、フォア賞から
凱旋門賞へ向かうまでの調教プランを聞きました。
・1週前のしっかりした追い切りは前週の水曜ではなくもう少しあと(週末)に行うこと
・最終追い切りは宮本厩舎のスタッフで行うこと
・悔いのない仕上げをすること
実際に調教が進むにつれ、予定していた最初の2つが予定どおり行われていることにとにかくホッとしました。とにかく予定どおりに、思い描いたとおりに調教を進められるというのは、それだけ順調にきている証拠ですからね。
それらが相まって“悔いのない仕上げ”につながるのだ思います。
ずっと
クリンチャーに付き添い、最終追い切りに騎乗した長谷川助手にも連絡して様子を聞いたところ「ここまで精一杯やってきました」と、ホントやれるだけのことをアウェーの地でやれるだけやってきたというのがジンジンと伝わってきました。
クリンチャー自身も慣れない飛行機での輸送、広大な異国の地でコツコツと頑張って鍛錬を重ねてきています。
そして。宮本師は
クリンチャーの馬主である前田幸治オーナーへの絶えない感謝をしみじみ話していらっしゃいました。
「前田オーナーにはとてもお世話になっており、預託馬を預けていただいているだけではなく、
キズナが
凱旋門賞に出走したときに観戦に連れて行っていただきました。このような貴重な経験をさせていただいた前田オーナーに恩返しがしたいんです。そして、僕は山本調教師に“前田オーナーの馬でGIを勝ちなさい”と言われています。尊敬する先輩とのこの遺言を果たしたいんです」
この“山本調教師”とは、
キーストンの主戦騎手だった山本正司元騎手のことです。山本調教師は2016年の暮れに亡くなりましたが、生前繰り返しそう言っていたそうなのです。
「山本調教師が亡くなった直後の2017年1月に
クリンチャーはデビューしました。わたしはこの山本調教師との遺言を叶えて、前田オーナーに恩返ししたい。今回はその恰好のチャンスだと思っています」
凱旋門賞の発走時刻は日本時間10月7日23時05分。
あとは、
凱旋門賞当日、
クリンチャーが少しでも有利になるように少し湿った馬場になることを祈ります。
(取材・文:花岡貴子)