今年の
菊花賞は、逃げ、先行で良績のある馬が複数いて、それらが真ん中より内の枠に集まった。
ゲートが開くと、
田辺裕信の
ジェネラーレウーノが
アイトーンとの先手争いを制する形でハナに立った。
カフジバンガード、
エポカドーロのほか、外から
コズミックフォースも先団にとりついた。
クリストフ・ルメールの
フィエールマンは中団。その内に
武豊の
ユーキャンスマイルがつけ、直後で
池添謙一が乗る1番人気の
ブラストワンピースがガチッと手綱を押さえている。それらを見ながら後方の外目を進んでいた
ミルコ・デムーロの
エタリオウが、1周目スタンド前でスルスルとポジションを上げ、中団へ。
最初の1000mは1分2秒7という、ゆったりした流れになった。
1、2コーナーを回り、向正面に入った。
ジェネラーレウーノが引っ張る先行集団はほぼそのまま。中団馬群に
フィエールマン、少し後ろの外に
エタリオウ、その内に
ユーキャンスマイル、さらにその後ろに
ブラストワンピースがつけている。
2000m通過は2分6秒9。ということは、この1000mは1分4秒2という、最初の1000m以上に遅い流れになったわけだ。
ラスト800m。3コーナーの坂を下りながら馬群が密度を高めていく。しかし、手が激しく動いている騎手はいない。どの馬も余力を残している。
内埒沿いを行く
ジェネラーレウーノが先頭をキープしたまま直線へ。
スローに落として流れ込みをはかるこの馬をはじめとする先行馬に有利かと思われたが、ここからヨーイドンの瞬発力勝負になってしまった。
エタリオウが外から一気に進出し、内の馬たちに並びかけた。その後ろから
ブラストワンピースも脚を伸ばす。
フィエールマンも手応えはいいが、前を塞がれている。「直線に向いて、ちょっとガマンした」とルメール。
そのまま
エタリオウが突き抜けるかに見えたが、内の
アフリカンゴールドとの間にできたスペースから、
フィエールマンが凄まじい勢いで伸びてきた。同じところから
ユーキャンスマイルも差を詰めてくる。
早めに先頭に立った
エタリオウをめぐる、激しい攻防が始まった。
フィエールマンが並びかけると、外から
エタリオウが差し返す。
2頭並んでフィニッシュしたが、ルメールの
フィエールマンが、わずかにハナ差だけ前に出ていた。
「ミルコの馬は外からスムーズだった。ぼくの馬は切れ味があり、すごい瞬発力。負けたと思ってミルコに『おめでとう』と言ってしまいました」
そう話したルメールは、先週の
府中牝馬Sの
ディアドラ、
秋華賞の
アーモンドアイ、富士Sの
ロジクライにつづく重賞騎乗機会4連勝をやってのけた。さり気なく口にした「ちょっとガマン」で前があくのを待った判断も素晴らしかったが、3カ月半ぶりの実戦で、これだけの瞬発力を発揮できる状態に仕上げた陣営の努力に拍手を贈りたい。
なお、ルメールの重賞騎乗機会4連勝の相棒も、この
菊花賞の1〜4着馬も、すべてノーザン
ファームの生産馬だった。勝負の分かれ目はそこだと言ってしまうと元も子もないが、その強い馬づくりには敬意を表さなければならないだろう。
ブラストワンピースは4着。瞬発力勝負になると、分が悪かった。
8着の
エポカドーロ、9着の
ジェネラーレウーノは、おあつらえ向きの流れながら伸びなかったということは、距離が長かったか。
(文:島田明宏)