2日に発表された
朝日杯FS(16日=阪神芝外1600メートル)の登録馬を見て「あれ?」って思ったファンは多かったことだろう。牝馬の
グランアレグリアの登録は既報通り。しかし、この馬の他にも名の知れた牝馬が登録していた。そう、
タニノミッションだ。
今週の阪神JFに出走予定の馬が、次週の
朝日杯FSにも登録を行った理由とは――と仰々しく書くほどのものでもない。現段階で「7分の3」と確率が高くはない賞金400万円の抽選対象。阪神JFへの出走がかなわなかった場合の保険的な意味合いで、
朝日杯FSにも登録したもので、あくまで母子制覇のかかる阪神JFが本線に変わりはない。
この動きを知ったのは先週水曜のことだ。「運悪く除外された場合はどこに行くの?(阪神JFと)同じ日の中京(
つわぶき賞)あたりが候補?」と質問する記者に、「いや、
朝日杯FSに登録します。あくまでGIで勝負してみたいので」と辻野助手はサラリ。
さすがは名牝
ウオッカの娘。「そこらへんの自己条件には見向きもしないということね」と嫌みったらしく返してみたのだが、「まあ、それくらいの期待を持てる勝ち方をデビュー戦(東京芝1600メートル)で見せてくれたということです。正直、調教本数はかなり少なかった。この状態で走ってくれたらモノが違うかもしれないなって。そんな気持ちで出走させていた背景もありましたからね」。
追い不足で勝ち切ったこともすごいが、こちらが勝手に抱いていた
ウオッカ産駒の先入観を見事にぶち壊してくれた。何よりもそれがすごい。
これまでの
ウオッカの子といえば、とにかく体ばかりが大きくて、俊敏さに著しく欠ける。そんなタイプばかり。しかし
タニノミッションは一瞬の加速が必要な状況をアッサリとクリアしてしまった。出走馬最速タイだった上がり33秒4の数字は
オマケみたいなもの。初めて登場した“切れる
ウオッカ産駒”が彼女なのだ。
「骨格が大き過ぎるがゆえでしょうね。これまでの
ウオッカの子は付随すべき筋肉をつけることができず、どうしてもドタドタした走りになってしまっていた。切れや瞬発力といった言葉と一番遠いところにいる。そんな馬ばかりだったじゃないですか。でも、この馬は兄姉と違って標準サイズの馬体。それに父がス
プリント系の馬(インヴィンシブルスピリット)に替わったことが大きかった。でも父が替わっただけのことで、これほどまでに違った方向の馬になるとはねえ…。さすがに僕らも思わなかったですよ」と辻野助手。
牝馬として64年ぶりに
日本ダービー(2007年)制覇を果たした
母ウオッカのように牡馬相手のGIで活躍する姿も見てみたいが、一方で母の伝説のスタートは抽選突破からのGI勝利となった06年阪神JF。当初の予定通り、まず阪神JFに出走し、母子制覇の偉業達成に期待する気持ちが個人的にはより強い。
「ちなみに抽選除外になった場合、いつから朝日杯の特殊ゼッケンをつければいいんですかね?」という辻野助手に、「そりゃあ、出走権利のなくなった金曜の朝から青のゼッケンに替えないとダメでしょ」と答えておいたが、阪神JF当日を迎えるその日まで、
朝日杯FSの青い特殊ゼッケンではなく、阪神JFの特殊ゼッケンである「えんじの12番」を着用していることを願いたい。そんなことを考える阪神JFウイークの週初めなのである。
(松浪大樹)
東京スポーツ