細かい雨が降りつづき、第10レース発走前に中山芝コースの馬場状態が良から稍重に変更された。
ブラストワンピースを管理する
大竹正博調教師はこう受けとめていた。
「2戦目のゆりかもめ賞のときも馬場が渋ったのですが、問題なかった。父が
ハービンジャーなので、プラスに考えました」
鞍上の
池添謙一も同じだった。
「馬力のある馬だし、大丈夫だと思っていました」
レースに関して、大竹師から池添に一切指示はなかった。池添は、オーナーから「思い切って乗ってくれ」と送り出されたという。
「パドックと馬場入りのときはチャカついて、
テンションが高めかなと思いました。スタートをしっかり出して、ポジションをとりに行こうと、自分のなかでは決めていました」
平成最後の
グランプリのゲートが開き、16頭の出走馬が飛び出した。
1枠1番を利して
武豊の
オジュウチョウサンが先頭に立つと場内が大きく沸いた。
「好スタートを切れば先手をとりたいと思っていました。状態もよく、自分としては、やりたいレースをすることができました」
1周目の4コーナーを回りながら、大方の予想通り、
川田将雅の
キセキが外から進出し、単騎でハナに立ってスタンド前を通過した。
「自分のリズムでレースをしてくれればいいと思っていました。具合がよかったので、前に進む気持ちが強かったですね」と川田。
オジュウチョウサン、
ミッキーロケット、
サウンズオブアースらがつづく。
前半1000m通過は1分00秒8。馬場状態を考えると、けっして遅くはない。
1、2コーナーを回りながら
キセキは後ろとの差をひろげ、4馬身ほどのリードをとって向正面に入った。
ブラストワンピースは中団の外、その2馬身ほど後ろに、1番人気の
レイデオロがつけている。
キセキは5馬身ほどのリードで2周目の3コーナーへ。2番手は
オジュウチョウサン、その外に
ミッキーロケットが馬体を併せている。
3、4コーナー中間の勝負どころで、池添の手が動き、前をかわしにかかった。
「
レイデオロが後ろにいることはわかっていたので、仕掛けどころが大事だと思い、ここというところで動きました」
キセキが先頭のまま直線に入った。
オジュウチョウサンが
キセキとの差を3馬身ほどに詰めてスパートをかける。
「最後は一瞬『おっ』と期待を抱ける手応えだった。4コーナーの走りは、乗っていて感動しました」と武。
ラスト200m地点までは
オジュウチョウサンも踏ん張っていたが、坂を上り切ったところで、馬場の真ん中から
ブラストワンピースが猛然と伸びてきた。その外から
レイデオロも差を詰めてくる。
「坂を上って後ろから足音が聞こえたときは、『なんとかしのいでくれ』と思いながら追いました」と池添。
その思いに応え、
ブラストワンピースが先頭でゴールを駆け抜けた。
勝ちタイムは2分32秒2。
結果として、馬場のいい外目で折り合い、早めに仕掛ける積極策が、レースの上がり36秒9という消耗戦で奏功した。これを含む全7戦に騎乗し、パートナーを知り尽くした池添の好プレーだった。
「この馬の期待度からすると、ここがゴールではない」と大竹師。今年の3歳世代の強さを改めて示す、楽しみなニューヒーローが誕生した。
(文:島田明宏)