最初のコーナーまでに十分な距離があるうえに、坂の下りで惰性がつくため、最後の直線で馬群がバラけやすい京都芝外回り1800メートルは、不利を受ける可能性が極めて少ない素晴らしいコースだ。なぜ、この舞台でGIを行わないのか? 勝手に怒り心頭しているくらい、ホレにホレ込んでいる設定なのだが、それはトレセン関係者も一緒。管理馬の能力に自信を持っていればいるほど、出走させたくなる舞台なのである。
幾度となく取り上げられる、いわゆる“伝説の新馬戦”も、やはりこの舞台。秋開催の京都新馬戦は、ここを走る馬だけ注目していればOK…ではさすがに言い過ぎかもしれないが、それ以外の舞台とは大きな差があると考えてもらっていい。
にもかかわらず、“メンバーが揃わない”ことを理由に、京都芝外1800メートルのデビュー戦を飾った馬がいる。GIII
毎日杯(23日=阪神芝外1800メートル)に出走する
ウーリリだ。ダービー馬
マカヒキを全兄に持つ良血馬がこの舞台を使えば、周囲は「相当な能力を持っているんでしょ?」と考えると思うが、陣営の判断は実はまったくの逆だったのだ。
「攻めで目立つような走りをしていたわけではないし、ウッドでしっかりと追い切れるほどの力もなかった。だからこそ、GIの裏でメンバーの揃わなそうなレースを選択したんだけど…」と当時を述懐し、苦笑いするのは友道調教師。
そう、この一戦は
ジャパンC当日の京都。興行的には“裏開催”だ。確かに秋の京都芝外1800メートルにはGIを狙う血統馬が集結してくるが、そのほとんどはGIデー。先の“伝説の新馬戦”も
菊花賞当日だからこそ生まれたものであって、その傾向は現在も変わらない。むしろ、拍車がかかっているような印象さえ受けるほどだ。
では、
ウーリリの初戦は友道調教師のもくろみ通りの低レベルなメンバーで行われた、低レベルな一戦だったのか? クビ差2着に退けた
ミッキーブリランテは
シンザン記念で惜しい3着に入り、先々週の500万下を完勝している。
そもそも開催最終週の芝でラスト3ハロンは11秒7-11秒3-11秒2なら、言うほどレベルは低くない…いや、もしかしたら、この舞台にふさわしいメンバーとレースの質だったのではないか? 仮にそうだとすれば話は大きく変わってくるが…。
「お兄ちゃんと比較するのは無理ですよ。馬がまるで違います。今回だってウッドで追い切るほどの力がつききっていないので、ポリトラックで追い切っているくらいですから」と
ウーリリの現状を評する藤本助手は「こんな不安な気持ちで迎える1番人気はなかなかないな」と思いながら、新馬戦を見ていたという。
トレーナーの
ジャッジもまた同様で、今回もトーンは決して上がっていない。
「非力な面は変わっていないし、普段の調教の感触だけを言えば、重賞でも…という強気な発言は難しいですね。でも、1週前に乗ったジョッキー(福永)がずいぶんと褒めてくれたんです。“馬が変わってきた。良くなっている”って。軽い馬場で走らせると、何か光るものがあるのかもしれませんよ」
4か月ぶりの実戦が重賞チャレンジ。正直に言えば、相当に厳しい。厩舎にいる誰もが「この馬が良くなるのはもっと先」と口を揃えるほどで、急成長している感は見た目にない。しかし、この雰囲気は低評価だったデビュー戦の時とまったく一緒。そして、そのデビュー戦は能力なしには勝てないはずの京都芝外1800メートルでの勝利となると…。その可能性に一票を投じてみる価値はあるかもしれない。
(松浪大樹)
東京スポーツ