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2年目・西村淳也、飛躍の裏に田所師の教育論

デイリースポーツ
  • 2019年06月25日(火) 14時02分
 2年目の西村淳也騎手(19)=栗東・田所=がブレイク中だ。ルーキーイヤーに挙げた13勝を、今年はわずか3カ月で達成。自身の記録を超えてもその勢いは止まらず、コツコツと勝ち鞍を増やし、現在(先週終了時)30勝。単純計算すれば、年間60勝のペースだ。全国リーディングは18位。関西に限れば、今年のダービーを制した浜中騎手やベテラン・幸騎手を抑えて12位。見習い騎手(免許の通算取得期間が5年未満。勝利度数が100回以下の騎手)の中では現在トップ。「毎週、前走のレース動画を見ることは欠かさずにやっています。ペースの流れが読めてきたことですかね。周りが見えるようになって、レースに慣れた部分が一番大きいと思う」と西村淳は、今の好調ぶりについて分析する。

 第三者の視点からは、今の活躍ぶりをどう捉えているのか。師匠である田所師に聞いてみた。“きっと喜んでいるに違いない”-そう思ったが、実際は違った。「今はただ、勝てるチャンスがある馬を依頼されているから。自分の力ではない。現時点では、技術的にもいい面は何もない」と開口一番、バッサリだ。

 驚いた。普段から物腰が柔らかく、取材にも丁寧に接してくれる師が、そう言い放ったからだ。しかし、それは決して冷たいからではない。話を深く聞いていく中で、それは師なりの教育法であることが分かってきた。

「うぬぼれることがないよう、褒めることは一切しない。変に褒めたりすると甘えにつながるから。辛口になるのは分かっているんだけどね。苦言を言うのは成長してほしいから。だから、今勝っているのは決して自分だけの力じゃないぞ、と言っている。“オレが勝っているんだ”-そう思わせないように注意はしている」と理由を説明した上で、「技術的な面も重要だが、それよりも人間形成を大切にしている」と続けた。

 なぜこのような“信念”を持たれているのか。「元騎手としての経験があるから」だと言う。ジョッキーはもちろん、馬主や調教師からの依頼があって馬に乗ることができる。ただでさえ、乗り代わりが珍しくない今の競馬界。身をもって“人間関係の大切さ”を実感しているからこそだろう。「厩舎側も旬な乗り役を選びたがる。今は成績がいいから(騎乗馬が)集まっているが、それを本人が自覚しているかどうか。賞金も稼いで、みんなにも注目されている。だから人に対しての態度もそうだし、馬に関してもそう。それは(レースで)負けたあとのコメントひとつでも言える。“走りませんでした”とか“駄目でした”とか。そう発言したら、調教師はどう思うか。“馬のせいにするなよ”とか、“なんだこいつ生意気な”ととらえかねない。そういう言動をとらないよう、技術うんぬんよりも、まずは人間形成を大切にしている。特に若手にはね」。

 その教えは騎手だけでなく、厩舎全体としても共有されている。「何回かアドバイスを言ってみる。そして、それがどういうことなのかを、結局は自分で分かるようにしないといけない。それが人間形成だと思う。ちゃんとした表現をできるようにすること。それはスタッフにも徹底している。淳也に関してもそれをやっておかないと、取り返しがつかないし元に戻せない。デビュー時は厩舎のバックアップがあるけど、そういう言動や態度ひとつひとつから競馬は始まっている。昔から言っているが、“初心忘れず”という気持ちを常に持ち続けて。そのためにも苦言は言う。人間形成のために。成長してほしいからね」と弟子ばかりでなく、苦労をともにするスタッフの成長にも心を配る。

 続けて弟子の現状にも触れ、「もちろんのことだが、減量がなくなれば、その恩恵を利用できなくなる。減量が取れた2、3年後に、(騎乗依頼がもらえる)この状況を維持できるかは分からない。逆に2、3年後、今の状態が続ければ、これはしめたもんじゃないかな」と結論づけた。あくまで将来を見据えて-。そして立派に独り立ちできるように-。そこに師匠なりの教育法が垣間見えた気がした。

「(師から)厳しいことを言われますよ。そのおかげで調子には乗らない。先生の人柄の良さもあって、そのおかげで乗せてもらえていると思います」と来月30日に20歳になる西村淳は言う。「まだ未成年だから。今の勝ちは相乗効果の部分が大きい」。師匠からすると、まだまだ成長途上なのかも知れない。しかし、勝ち鞍が増えるにつれて騎乗依頼が増えていく。田所師が言うところの“相乗効果”の部分はあるにしても、乗りに乗っていることは事実だ。「褒めるとすれば、スタートセンスがいいところかな」と言う。現に勝ち星の大半が“先行逃げ切り”だ。減量を生かした積極的な騎乗が結果に結びついている。

「これからが勝負なので。夏競馬でいかに活躍していくか。ありがたいことに、いい馬に乗せてもらえている。競馬に乗らない分には勝てもしないので。乗ることが一番」と話す若武者。「20歳になったら、また取材をお願いしますよ」。自信の表れなのか、表情もたくましくなったような気がする。下半期も思う存分暴れてほしい。(デイリースポーツ・赤尾慶太)

提供:デイリースポーツ

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