第55回
七夕賞のゲートが開いた。大方の予想どおり、
マルターズアポジーがハナを切り、馬群を引っ張った。
タニノフランケル、
ロードヴァンドールらがつづく。
菊沢一樹が乗る
ミッキースワローは中団の外目を進んでいる。
「スタート前から、馬のリズムで競馬をしようと思っていました。思ったより馬が気分よく走ってくれて、いつもより前のポジションになりました」と菊沢。
縦長になった馬群が向正面に入った。1000m通過は58秒0。
先頭の
マルターズアポジーから
ミッキースワローまでは12、3馬身か。
3コーナーに入り、ラスト600m切ると馬群が一気に凝縮された。
逃げる
マルターズアポジーをとらえるべく、後続が外から襲いかかる。なかでも、大外から進出する
ミッキースワローの伸び脚が目立っていい。
「押し切れる自信はあったので、すごいワクワクしながら追い出しました。小細工なしに、この馬は強いと信じていたので、一番馬場のいいところを気分よく邪魔されないように走らせようという気持ちで乗っていました」
そう話す菊沢の自信が伝わったのか。
ミッキースワローはさらに脚を伸ばし、4コーナーで先頭に並びかけながら直線に入った。
菊沢はステッキを右手に持ち替えて、パートナーを叱咤する。
ラスト200m地点で、
ミッキースワローが2馬身ほど抜け出した。
外から
クレッシェンドラヴが追い込んでくる。
追いつづけた菊沢が、外の馬と馬体を離そうとしたのか、鞭をまた左に持ち替えたところがゴールだった。
「福島の直線がこんなに長いと思ったのは初めてでした」
笑顔でそう話した菊沢は、デビュー4年目で重賞初制覇を遂げた。それも、父の
菊沢隆徳調教師の管理馬で達成したのだから、喜びもひとしおだろう。
「デビューしてから迷惑もかけていたのに、乗せつづけてくれた。恩返ししたいなと思っていたので、結果を出せてよかったです。まだまだ騎手としても人としても未熟ですが、これから成長して、馬に勉強させてもらって、少しでも上に行けるよう頑張ります」
トップハンデも何のその。内容的には圧勝だった。
騎乗馬の強さをフルに引き出した、菊沢の好騎乗が光った。
(文:島田明宏)