「スタートがよく、いいポジションを取ることができました」
3枠5番から出た
グルーヴィットの
松山弘平はそう振り返った。促し気味に4、5番手で向正面を進む。
1番人気の
プリモシーンが外から並びかけてきて、直後には同じ3歳馬の
クリノガウディーらがいる。
グルーヴィットは、3コーナーに入ると、引っ張り切れないほどの手応えで上がっていく
プリモシーンにやや置かれ気味になった。
松山は手の動きが大きくなり、3、4コーナー中間地点で、もう右鞭を入れている。
傍目には手応えが怪しく映ったのだが、鞍上の松山は冷静だった。
「3、4コーナーでちょっとズブさを見せたのですが、そのへんも頭に入っていました」
実戦で手綱を取るのはこれが初めてだったが、調教では跨っており、この馬の特徴をとらえていた。
自然と7、8番手まで後退したが、ステッキを入れながら4コーナーを回る。
「しっかり動かしながら直線に向くことができました」
ラスト800mあたりから追いどおしだったのだが、
グルーヴィットは松山の叱咤に応えて末脚を伸ばす。
直線入口で、先頭との差は5馬身ほどか。すぐ前の内にいる
プリモシーンが満を持してスパートをかける。
ラスト200m地点で先頭との差は3馬身を切っていた。が、斜め前の
プリモシーンと、外から迫る
クリノガウディーの脚色もいい。
プリモシーンが先頭に立った次の瞬間、
グルーヴィットがかわして前に出た。外から馬体を並べてきた
クリノガウディーのほうが勢いでは上回っているように見える。
ハンデは同じ52kgだ。
自身が
プリモシーンをかわしたのと同じように外から追い越されるかに見えたが、
グルーヴィットは力強く二の脚を使い、ハナ差で
クリノガウディーの猛追をしのぎ切った。
「長くいい脚を使ってくれました。馬が最後まで踏ん張って、頑張ってくれました。まだこれからの馬だと思います。先が楽しみです」と松山。
前走の
NHKマイルカップは着順こそ10着だったが、ゴール前で進路がなくなり、まともに追えなかった。にもかかわらず、差はコンマ5秒しかなかった。
3代母に
エアグルーヴがいる良血馬の力を、松山がフルに引き出して初めての重賞タイトルを勝ち取った。
(文:島田明宏)