北海道日高町の「
ヴェルサイユファーム」と浦河町の「うらかわ優駿ビレッジAERU(アエル)」と名馬の鬣(たてがみ)が何者かによって切られるという非常に残念な事件が起きた。
タイキシャトル(セン25・認定NPO法人引退馬協会所有)と
ローズキングダム(セン12)の2頭の鬣が切られていることに
ヴェルサイユリゾート
ファームが気付いたのは、9月15日。14日朝の手入れ時には異常はなかったことから、それ以降、放牧地に出てからの被害と思われる。
ヴェルサイユファーム代表の岩崎崇文さんは、
タイキシャトルを所有している認定NPO法人引退馬協会とも協議し、北海道警門別署に被害届を提出。器物損壊事件として捜査中となっている。同
ファームには、他に
メイショウドトウ(セン23・認定NPO法人引退馬協会所有)、
アドマイヤジャパン(牡17)、
ブロードアピール(牝25)など功労馬や引退馬たちが余生を過ごしており、これらの馬には被害はなかった。なお同
ファームは予約さえすれば、一般のファンの見学をオープンに受け入れてきた。
一方、
ウイニングチケット(セン29)は、フリマアプリの「メルカリ」に同馬の鬣が出品されているのを常連客が発見。15日にAERUに知らせが入った。
タイキシャトルと
ローズキングダムの鬣が切られる事件が先に報道されていた経緯もあり、
ウイニングチケットの鬣を調べたところ、幅10センチ、長さ20センチが切断されていたことがわかった。犯行日時を特定するために訪れたファンから撮影した写真の提供を募ったところ、12日午前10時頃撮影の写真には異常はなく、14日午前10時頃の写真では鬣が切られていたことが判明。18日に北海道警浦河署に被害届を出し、当日は見学中止の措置を取っている。AERUには
スズカフェニックス(セン17)、
タイムパラドックス(セン21)といった名馬も繋養されていたが、幸いこの2頭に被害は及ばなかった。
AERUは観光施設ということもあり、見学時間内であれば同施設で販売している人参を購入して馬たちに与え、名馬と間近に接することができたため、訪れたファンにも喜ばれていた。「それを逆手に取られた格好ですね」と乗馬課の太田篤志さんは悔しそうに話した。
事件を受け、
ヴェルサイユファームでは、
タイキシャトルを所有している認定NPO法人引退馬協会とも相談の上、牧場の見学を中止している。今は見学再開に向けて、180度見渡せる監視カメラを設置(予定)するなど、再発防止に対策を講じている最中だ。
優駿ビレッジAERUは、前述した通り観光施設ということもあり「見学時間を短縮するなどして、できることから対策をしていきます」とした。18日に更新されたフェイスブックによると、馬たち用の人参の販売を中止、9時〜17時までの見学時間が9時〜15時まで変更と発表されている。
フリマアプリ等での販売が目的だったのか、それとも別の目的があったのかは定かではないが、刃物を持って馬に近づく行為自体、一歩間違えば馬体に傷をつける可能性があり、決して許されることではない。今回被害にあった馬たちは鬣を切られた以外に、怪我がなかったのが不幸中の幸いだった。馬は繊細な生き物だ。もし馬体に傷をつけられていたとしたら、彼らの心にもまた傷が残っていただろう。
またほとんどが牧場の厚意によって馬たちの見学が成り立っていると言っても過言ではない。大切な馬たちに会わせてもらえるのだから、許可を得ずに敷地に入らない、勝手に食べ物を与えない、触らない、大声をあげないなど、マナーやルールを遵守するのは当たり前のことだ。ましてや馬の鬣を切り取る行為は、マナーやルール以前の問題だ。
犯人が取った軽率な行動によって、引退功労馬を繋養する牧場の多くがファンの訪問を警戒するだろうし、新たに見学中止を検討している牧場もあるかもしれない。そして結果的に引退馬を繋養する牧場自体が少なくなる可能性もある。
この原稿を執筆中にも、
ウイニングチケットと同期で、日高町の「日西牧場」で繋養されている
ビワハヤヒデ(牡29・見学不可)が同様の被害に遭ったというニュースを目にした。これで被害馬は4頭となった。
本当のファンなら鬣を切ったりはしないだろうが、馬が繊細な生き物だということ、牧場のご厚意で見学させてもらっていることを念頭に置いて、今回の事件を機に牧場を見学する側のマナーを、改めて見直してみてはいかがだろうか。
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ヴェルサイユファーム
Facebook※うらかわ優駿ビレッジAERU(アエル)
Facebook(取材・文:佐々木祥恵)