「レース記者コラム・仕事 賭け事 独り言」
10月2日の東京・
大井競馬場は、まさに“菜七子フィーバー”の一日となった。
この日行われたJRAと地方の交流重賞「第53回
東京盃・Jpn2」で
コパノキッキングの手綱を取った藤田菜七子は、鮮やかな逃げ切り勝ちで、JRA所属の女性騎手として史上初の重賞制覇。
その人気にあやかってか、
東京盃1レースの売上げや
東京盃当日の1日あたりの売上はレコードを更新。パドックや、コースのラチ沿いはカメラを持ったファンであふれ返った。
そんな盛り上がりの一方で、一部のコアなファンから熱い視線を浴びていたのが、11歳になった今年も元気に現役を続けている
ゴーディーだ。
さすがに15頭立ての15番人気だったが、レースでは中団待機から最後まで息切れせずに11着で入線。老雄健在ぶりをアピールした。
「人気があるんだよね。パドックでもよく声がかかるんだ。馬はまだまだ元気だし、人間も見習わないと」と笑うのは、
ゴーディーが2歳で入きゅうしてから足かけ10年以上も手がけている
赤嶺本浩調教師。
今年の4月から調教師に転身した息子で元騎手の
赤嶺亮師は、「まさか
ゴーディーより先に引退するとは思わなかった」と苦笑いし、騎手としての思い出のレースとして真っ先に「
ゴーディーと勝った
サンタアニタトロフィー(12年)」を挙げる。そして調教師としての抱負も「
ゴーディーのような生え抜きの馬を育てたい」。
ゴーディーはこれがデビュー以来通算93戦目で、今年だけで実に11戦目。どこにそんなスタミナがあるのかと想像するに、アラブの血量14・86%の血統的背景に思い至る。
ゴーディーの母はアングロアラブの
イケノエメラルド。まだ
地方競馬にアラブのレースがあった頃、笠松のアラブダービーやアラブギフ大賞典、名古屋のアラブ王冠などを含め60戦で27勝をマークした女傑だった。
さらに血統をさかのぼると、
イケノエメラルドの母・
キタノエメラルドはアラブの名種牡馬
キタノトウザイの産駒。その
キタノトウザイを産んだのが
イナリトウザイで、並み居るサラブレッドを蹴散らし“アラブの魔女”の異名を取ったスーパーホースに行き着くのだ。
その
イナリトウザイは昭和49年に
中央競馬から大井へ移籍後、あまりの強さにアラブの重賞が不成立になるなどして、苦肉の策で挑戦したのが今から45年前の「第8回
東京盃」だった。
そこでサラブレッドの一線級を相手に、ダート1200メートルを1分10秒5という当時としては驚異的なレコードで圧勝。今でもオールドファンの間では語り草になっている
エポックだ。
閑話休題。
ゴーディーの今後だが、南関東には10歳以上の出走資格について「前年次に入着歴のあるA1級格付馬に限り、当該年次の出走資格を与えられる」との規定がある。
つまり、A1の馬に限っては9歳時に一度でも5着以内に入れば10歳でも現役を続行でき、その年にまた5着以内があれば11歳でも…。
ゴーディーは今年6月27日の「武蔵野オープン」(大井)で7頭立ての5着に入っており、12歳になる来年も出走資格がある。
「元気なうちは、少しでも長く現役生活を送らせてやりたいね」と言う赤嶺本師が明かすところによると、
ゴーディーは大の注射嫌いで、競走馬には一般的に用いられる疲労回復用の筋肉注射は一度も打ったこと(打たせたこと)がないとのこと。
「だから
ゴーディーは自力で体を回復させているんだ。偉い馬だよ。ファンの多い馬だから、現役を終えたら大井で誘導馬になれたらいいね」。
いまや“大井の至宝”ともいえる
ゴーディーの今後を、ファンとともに温かい目で見守りたい。
(南関東
地方競馬担当・関口秀之)
提供:デイリースポーツ