「勝てるレースをしようと思っていました」
武豊はレース直後にそう言った。その言葉の意味するものが、
ワールドプレミアの序盤の走りからも見て取れた。
節目の第80回
菊花賞。武が騎乗する3番人気の
ワールドプレミアは、「いい枠だった」という5番枠を生かし、積極的に好位の内目のポジションを取りに行った。
1周目の3、4コーナーで外から前に入られて手綱を引く局面があった。が、それさえも、位置を取りに行った先で折り合わせるという、「勝てるレース」するための戦術に取り入れるかのようにして、正面スタンド前で馬をなだめることに専念した。
「道中は折り合いがついていたし、上手に走ってくれました」
1コーナーを回るまでは、やや重心を後ろにかけて抑えているように見えたが、武の感覚としては掛かっていたのではなく、抜群の手応えで進んでいた、ということだろう。
1000m通過は1分2秒4というゆったりした流れになった。
武の
ワールドプレミアは、1番人気の
ヴェロックスをマークするように進む。
2周目の3、4コーナーで、武は内を回りながら、前があくのを待っていた。京都の外回りコースは、特に長距離戦では、直線の入口で馬群がバラけやすい。
直線入口、
ワールドプレミアが先行していた
ヴァンケドミンゴを内からかわすと、外を回った
ヴェロックスと並走するような格好になった。
武は、
ヴェロックスに馬体を併せに行くのではなく、左鞭を使って
ワールドプレミアを叱咤した。そして、外から伸びてきた
サトノルークスの追い上げを首差で封じ、先頭でゴールを駆け抜けた。
前走、3着に終わった
神戸新聞杯でも、阪神芝外回りコースの4コーナーを、京都の芝外回りコースを回るときと同じように勢いをつけて回るなど、本番に向けてのシミュレーションはできていた。
武にとって
菊花賞の勝利は、
ワールドプレミアの
父ディープインパクトで制した2005年以来。ディープの死後、産駒による初のGI勝利は、ディープの主戦だった武の手綱により、節目の
菊花賞で達成された。
(文:島田明宏)