パリロンシャンのパドックで
フィエールマンの姿を見たときに「今日はないな」と思った。
明らかに馬体が薄く、すでに馬が疲れているように感じたからだ。山村記者によれば、「あのときは
テンションが高くなり、折り合いも欠いてしまった。体も細く見えたね。馬場うんぬんの問題ではなかったと思う」と手塚調教師は
凱旋門賞を振り返っているという。
ゴール直後に止まってしまったほど、疲労困ぱいだった
フィエールマンが2か月半程度の間隔で復活するとは思っていないが、再び山村記者によると「重心の低い走りが戻っているらしいよ」と。1週前追い切りでは
セダブリランテスにアオられていたが、同馬は
ディセンバーSを楽勝。
フィエールマンの評価を上げる記者が出てくるかもしれない。
一方、パドックに登場した
キセキの雰囲気はニューマーケット組よりも良好に見えたのだが…。それ以降が良くなかった。返し馬に入ると一気にひっかかり、ものすごい勢いで向正面まで走ってしまったのだ。「あの日の馬場は相当にタフな状態だったからね。あれで“終わってしまった”と思ったのは確か」と担当の清山助手は振り返る。
“戦う前に終わっていた”という意味では、
フィエールマンと同じでも、その意味合いが少し違うことは認識しておきたい。日本で結果を出していたころに戻そうとする
フィエールマンに対し、
キセキは結果を出せなかったフランスでの経験を今回の一戦に
フィードバックしようとしている。
「
シャンティイの砂は深いでしょ?歩いているだけでもトレーニングになるし、それが
キセキの弱かった部分を鍛えてくれた。体幹がしっかりしてきたと感じるよ」(清山助手)
ここまでは、どの新聞も報じていること。だからこそ、記者は次の部分にこそ注目した。
「最後にしっかりと伸び切るために、まずは体を起こしておく。まあ、当たり前の理屈ではあるんだけど、以前から意識的に上体を起こした乗り方を心がけてきた。速いところよりも、キャンターのほうが大変なんだよ。ハミを軽くかませた状態で、
キセキの
パワーをコントロールしなくちゃいけないんだからね」
「頭の位置が低い走りこそベスト」という“刷り込み”がある日本では「見た目がイマイチ」となってしまうが、欧州のトップジョッキーたちは、当たり前のようにする乗り方だ。
キセキのフォワ賞(3着)後に、友道キュウ舎の大江助手が「レースであそこまで体を起こして走る姿を初めて見た。負けはしたけど、スミヨンはああいうところをしっかりとやるんだ。さすがだなと思いましたよ」と口にしていたことを清山助手に振ると…。
「俺もそう思った。すごいなって。タフな馬場で密集した競馬をしている彼らは、いかに脚をためるかを考えている。でも、それは後ろにいればいいって簡単な話じゃなくて、しっかりと位置を取ったうえで我慢させる。その技術だよね。そのために必要な乗り方が“体を起こす”こと。今回の遠征はすごく意味があったと思うし、その乗り方が世界で一番上手な騎手はムーア。中山は
パワーが必要ってことも含め、すべてが今回の有馬に生きてくると思わない?」
今週火曜の坂路で見た
キセキは、上体を起こしながら軽くハミを取り、ウイークポイントである“ハミをたぐる”ような面も見せない、ギリギリのところでコントロールが利いた素晴らしい雰囲気だった。
「この調教を追い切り後の金曜あたりにもできれば面白いと思う」と、手応えを感じている清山助手は「あとは一瞬の脚で勝負する馬じゃないので、4コーナーで
アーモンドアイと2馬身は欲しいかな」と結んだ。これは大仕事をする可能性まであるのでは?フランス帯同記者として
キセキを応援したい気持ちが日に日に強まっている。
(栗東の本紙野郎・松浪大樹)
東京スポーツ