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異色の騎手・木村和士のエクリプス賞受賞に感激

デイリースポーツ
  • 2020年01月25日(土) 16時01分
 競馬ファンなら誰もが驚いたことだろう。日本人ジョッキーが、全米を揺るがす快挙を成し遂げた。日本時間24日に第49回エクリプス賞が発表され、カナダを拠点に活躍する木村和士騎手(20)が最優秀見習騎手部門を受賞。日本人初となる栄冠を手にした。

 会場に名前が響くと、大きな拍手とともに壇上に上がった木村騎手。英語で「サポートしてくれた全ての人に感謝したい」と喜んだ。表彰式のあとはパーティー、そして地元メディアによる取材。彼と連絡がついたのは、現地時間の深夜0時だった。まるで自分のことのようにうれしかった-。記者がこう伝えると、「最初は英語も話せなかった。そんな日本人を乗せてくれるなんて。僕は運が良かったんです」と謙遜していた。

 知らない人のために、エクリプス賞について説明したい。71年に創設された全米の年度代表表彰で、全米サラブレッド協会役員や全米競馬記者らによる投票によって決定される。彼が受賞した「最優秀見習騎手」部門の歴代受賞者には、世界の名手が名を連ねており、のちに米競馬の殿堂入りを果たすクリス・マッキャロンは74年、日本でも有名なケント・デザーモは87年に受賞。昨年、ワールドオールスタージョッキーズで来日したジュリアン・ルパルーは06年に獲得した。この賞を機に飛躍する騎手も多く、プロ野球でいえば新人賞のようなものだ。

 最終候補として選ばれたのは3人。木村君はジュリオコレアエンジェルディアスティマを接戦で退けてタイトルを手にした。「周りからも可能性が高いと言われていたので、表彰式はあらかじめスピーチを紙に書いて用意していました。メチャクチャ緊張したし、用意しておいて良かったな、と」。電話の向こうの声が弾んでいた。

 彼と出会ったのは17年7月だった。「記者代表として、翌年にデビューを予定している競馬学校生に講義をしてほしい」。JRAから依頼を受け、丸刈りの生徒たちを相手に1時間ほど話をさせてもらったのだ。当時、ひと際目を引いたのが“木村和士生徒”。質問コーナーを設けると、待ってましたとばかりに彼の独壇場が始まった。「エージェントはどうやって選べばいいですか?」「記者と騎手の関係は?」など質問攻め。積極的で好奇心旺盛の彼の姿に、すごく惹かれたのを覚えている。

 北海道浦河町出身で、父は生産・育成牧場の『No.9ホーストレーニングメソド』の代表。幼少の頃から馬に触れ、6歳でポニーにまたがった。JRA主催のポニー競馬競走『ジョッキーベイビーズ』に11年(6着)、12年(4着)と参戦した経歴も持つ。15年4月にJRA競馬学校騎手過程34期生として入学したが、卒業間近の17年秋に自主退学した。同期の服部寿希と西村淳也がデビューするなか、「小さい頃からジョッキーになることしか考えていなかったから」と、迷うことなく単身北米へと渡った異色のジョッキーだ。

 「JRAで高い技術を学ばせてもらっていたこともあって、すぐに目をつけてもらいました。そこからはルールブックを頭に詰めるだけ詰めて、免許を取得できました」と当時を振り返る。カナダ最高レベルといわれるウッドバイン競馬場で、調教に騎乗する姿が関係者の目に留まり、18年5月28日にデビュー。この時、記者はある関係者からレース映像を見せてもらうことがあった。フォームがきれいだな…というのが第一印象。同時に、カナダでジョッキーをやっている姿に驚きはなかった。探究心の塊だった彼なら当然かもな、と納得した。

 104勝を挙げた18年はカナダ競馬の年度表彰「ソヴリン賞」の最優秀見習騎手賞を受賞し、昨年はカナダリーディング3位となる148勝(863鞍は同1位)と大躍進した。印象に残っているレースを挙げてもらうと、「英国のエリザベス女王所有馬に騎乗したこと」と即答。続けて、「ヨーロッパから連れてきた馬に日本人を乗せてくれるなんて。“うまく乗れるジョッキーはいないか”と言われたウィリアム・ハガス調教師(英国の名トレーナー)が推してくれたんです。光栄に思いました」と説明する。エリザベス女王の所有馬に騎乗した日本人ジョッキーも彼だけだから、名誉と言う他ないだろう。

 騎乗機会に恵まれないJRAの若手騎手が多いなか、週4日〜6日の競馬は当たり前。昨年の騎乗数は北米1位となった。「レースに乗るのが大好きです。数を乗りたかったし、乗った方が楽しめる。北米に来て良かったと思います」。目標とするジョッキーは誰なのか。「チャンピオンジョッキーのアイラッド・オルティスJr.(19年リーディングトップ)ですね。そして、ホセ・オルティス(同2位)。この兄弟はすごい。タイラー・ガファリオンも若くてうまい」と憧れる。

 自立しているせいか、話しぶりからはとても20歳とは思えない。「親孝行は結果を残すこと」と家族思いの一面を見せ、「JRAの先輩にもお世話になったので、カナダで乗りたい人がいたらサポートすることで恩返しがしたいと思っています」と話す。人とのつながりを大切にする彼は、北米の関係者から“カズ”“カジー”“KK”と呼ばれ、すっかり溶け込んでいる。

 米国の名手たちは、この賞をきっかけにトップジョッキーへと突き進んだ。彼も確かな次の目標を掲げる。「カナダでリーディングを獲りたい。もっとグレードレースに乗りたいし、カナダの大きなレースに勝つとブリーダーズカップの出走権も得られます。オフシーズンはドバイや香港で経験を積みたい。世界中を駆け回りたい。この賞でスタートに立ったと思っています。これからが勝負ですね」。NBAで活躍する八村塁は同世代。若くてイキのいい日本人アスリートたちが、世界で大活躍している姿は誇りに思う。木村君が全米トップへ。そんな夢が、そう遠くないうちに現実となるかもしれない。(デイリースポーツ・井上達也)

提供:デイリースポーツ

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