仮に「三羽ガラス」的な評価を受けた競走馬たちがいたとしても、3頭揃って出世するケースはそうはない。しかし、2頭はすでにバリバリの重賞ウイナーに出世。そして残った1頭が、実は3頭の中でも最も評価されていたとするなら…。春のス
プリント王を決する第50回
高松宮記念(29日=中京芝1200メートル)で「トレセン発秘話」火曜担当の高岡功記者が発掘したのは、出世しない理由がない、とっておきのお宝馬だ。
一昨年の秋、野中厩舎には大いなる可能性を持った3頭の馬がいた。
ダート中距離の条件戦を圧勝の連続で勝ち上がっていた
インティに、1200~1600メートルのダート戦で好戦を続けていた
シヴァージ。もう1頭がすでに夏場に重賞(
レパードS)を勝ち、実績を残していたグリムだ。
そして、この時点での3頭の比較で、野中調教師の評価が最も高かったのは、重賞ウイナーのグリムでも、のちの
フェブラリーSの覇者
インティでもない。実は
シヴァージだった。
実際、一昨年秋より前の段階で
シヴァージは“GIレベル"の走りを見せていた。6月の2勝クラス・青梅特別(東京ダ1600メートル)で記録した勝ち時計1分35秒2(重)は、同日のGIII
ユニコーンS(1分35秒0=重)に0秒2差と迫る優秀なもの。しかも、
ユニコーンSの勝ち馬がのちに古馬相手に
チャンピオンズCを制した
ルヴァンスレーヴなのだから、その価値の高さが分かろう。
そこまで関係者の評価、そして実際の走行性能が高かった
シヴァージが、その後どうして伸び悩んだのか…その原因は分からない。が、芝路線に活路を求めた今、再び輝きを放ち始めたのは紛れもない事実だ。
「もともと“軽い芝でいいんじゃないか"と思って(米国の)セールでオーナーに買ってもらった馬だったからね。実際、ダートに使っていた時でも、いい競馬をしたのは馬場が軽い時が多かった。ダートを走らせていたのはずっと体質が弱かったから。骨瘤が出たりして、使った後にガタッとくることが多かったんだ。ここにきてようやくしっかりしてきたから“じゃあ芝で"ということになったんだよ」(野中調教師)
まだオープン特別の
北九州短距離Sを勝っただけにすぎないが、「小回りの小倉で、あの位置(4角13番手)から差し切れたのは、大きく評価していいと思う」と満足そうに振り返るトレーナーは初のGIを前に、こう言葉を続けた。
「ダートとはいえ、東京で何度もいい競馬をしていた馬だから、左回りに替わるのはいいと思う。もちろん、中京なら前回より直線も長くなるので、レースも明らかにしやすくなるからね。ここでもいい走りを期待できるんじゃないかと思っているんだ」
芝のキャリアはわずかに3戦。積み上げてきた実績や持ち時計を比較してしまえば当然、人気馬たちには大きく劣る。しかし、GI馬(
インティ)よりも、そして現重賞5勝馬(グリム)よりも評価が高かった馬が、ようやく能力を
マックスに出せる舞台にたどり着いたのだとすれば…。
シヴァージの大駆けを期待してみたくなりませんか?
(栗東の坂路野郎・高岡功)
東京スポーツ