阪神競馬場の芝は良馬場でスタートしたが、降りしきる雨が、第10レースの大阪-ハンブルクカップから重馬場のコンディションへと変えていた。
第80回
桜花賞のゲートが開くと、1番の
ナイントゥファイブ、3番の
スマイルカナら、内枠の馬たちが速いスタートを切った。
スマイルカナがハナに立ち、
ナイントゥファイブが2番手、5番の
マルターズディオサがつづく。外の17番枠から出た
武豊の
レシステンシアは他馬と横並びのスタートからじわっと押し上げ、ゲートから1ハロンほどのところで4番手につけた。
レシステンシアはさらにポジションを上げ、2番手で3コーナーに入って行く。
そこから5馬身以上離れた馬群の内にいた
松山弘平の
デアリングタクトは、やや行きたがっているように見えた。が、松山が手綱を引いていたのは、掛かり気味の走りを制御するためだけではなく、外を塞いでいた馬たちを先に行かせ、自分が外に出るための準備をしていたからでもあった。
前半3ハロン通過は34秒9、4ハロン通過は46秒5。馬場状態を考えると、かなり速い流れだ。
外に出すため
デアリングタクトのポジションはさらに後ろになったが、「ポジションは意識せず、馬のリズムを大事に乗ろうと思っていました。そうすれば最後はいい脚を使ってくれると信じていました」と言う松山にとっては都合のいい展開になった。
デアリングタクトは先頭から10馬身ほど離れた位置にいたが、3、4コーナーで外から差を詰めていく。
一方、
レシステンシアは、溜め逃げをして弾けなかった前走とは異なり、4コーナーを仕掛け気味に回ってロングスパートをかける。
その
レシステンシアの内に併せる形になった
スマイルカナがわずかに先頭のまま直線に向いた。
スマイルカナと
レシステンシアが後ろを離して叩き合う。
レシステンシアが前に出かかるが、
スマイルカナも譲らない。
ラスト200m。直線入口では5馬身ほど後ろにいた
デアリングタクトが外から凄まじい脚で伸び、差を詰めてくる。
ラスト100mを切ったあたりで、手前を右に戻すとさらに加速し、内の
レシステンシアを並ぶ間もなくかわし、1馬身半の差をつけてフィニッシュ。重賞初勝利をクラシック制覇で飾った。デビュー3戦目での
桜花賞制覇は、戦後、2歳戦が行われるようになってからの最少タイ記録。
その3戦すべてで手綱をとった松山が、パートナーを信じ切って勝ち獲った栄冠であった。
(文:島田明宏)