【牝馬三冠秘話
ヒストリア】
いよいよ
デアリングタクトが史上6頭目、史上初の無敗牝馬三冠に挑戦。4回にわたって、過去5頭の牝馬三冠馬の足跡を振り返る。2回目は2003年の
スティルインラブにスポットを当てた。
03年10月。春に牝馬2冠を成し遂げた
スティルインラブは、秋初戦のローズSで5着に完敗。三冠達成へ、黄色信号がともっていた。
主戦を務めた幸は「乗りやすくて素直な馬だったのですが、ひと夏を越して精神面が変わって…。ローズSもかなり引っ掛かりましたし、不安な気持ちで本番を迎えました」と当時を振り返った。
だが、主戦の不安をよそに、ひと叩きしてガスが抜けた相棒は、大一番で本領を発揮する。最大のラ
イバルは、ローズSで後じんを拝した
アドマイヤグルーヴ。その強烈な末脚を意識して当然だが、幸は冷静だった。
「舞台は京都内回りの二千。先行勢にも気をつけなければいけない馬がいたので、前を射程圏に入れながらレースを進めました」。
勝負どころから外を回って直線へ。前の馬をとらえた瞬間、猛追するラ
イバルの足音が聞こえた。「“負けたかな”と思いましたが、最後は同じ脚色に。馬の力で勝たせてもらいました」。3/4馬身差でしのぎ、栄光のゴールへ。2冠牝馬の底力はダテではなかった。
口取りでは、右手は3本の指を立て、左手には前田オーナーのご両親の遺影を掲げた。「素直にうれしかった。デビュー10年目の僕に初めてG1を勝たせてくれた上に、牝馬三冠も獲らせてくれた。あの頃から勝ち鞍や騎乗数が増えました。あの馬がいなければ、今も現役を続けていたか分かりません」。出会いに感謝。早世を悼みつつ、幸は名牝を“今でも愛している”。
提供:デイリースポーツ