昨年、史上初となる無敗での牝馬3冠の偉業を達成した
デアリングタクトが、いよいよ今年の始動を迎えるタイミングで、あえて時を戻させてもらうとしよう。
2冠目の
オークス時点では他にも2頭の無敗馬が参戦していた。未勝利戦→
スイートピーS勝ちの
デゼル、そして新馬戦→
フラワーC1着からの臨戦となった
アブレイズ。
金鯱賞に出走する
デアリングタクトではなく、GIII
中山牝馬S(13日=中山芝内1800メートル)で2つ目の重賞タイトル奪取を狙う、この
アブレイズこそが当コラムの
ヒロインだ。
オークスのゲートインまでは順調…いや、
オークスの直線半ばまでは、と言うべきか。道中は絶好位で運び、直線で脚を伸ばしかけながらも、ラスト1ハロン標すぎで不可解な失速――。後に骨折が判明した。
4か月の休養を経た復帰戦の
ローズS、次走の
秋華賞と2桁着順が続いたことで、“もう終わった”と感じた方も多かったのではないか?
しかし、デビュー時から
アブレイズにまたがり続け、前出
フラワーCで自身にとっても
JRA初重賞制覇を果たした藤井勘一郎は、まったく悲観してはいなかった。
「
ローズSは前々で運べて、道中の手応えも悪くなかったんだ。直線で伸びなかったのは、骨折による精神的な影響が残っていたのかもしれないですね。
秋華賞はペースが流れたこともあり、しっかり折り合って運べたんだけど…。4角で挟まれて下がってしまったからね」
いや、悲観していないどころか、むしろ、それまでの先行策から、位置取りが後ろにシフトした
秋華賞での不利を受ける前までの走りに、確かな手応えをつかんでいた。だからこそ、前走の
愛知杯でも控える競馬を選択して、4着まで押し上げる善戦につながったのだろう。そう、ターニングポイントになったのだ。
「(
愛知杯は)前半1000メートルが58秒を切る速い流れのなか、後ろからしっかりと伸びてくれましたからね。道中
リラックスして運べれば、きっちり末脚を使えることが分かったのは大きな収穫ですよね」
もともと「オンとオフがハッキリしている馬で、スイッチが入った時の動きは本当に素晴らしい」と
アブレイズの特徴を語る藤井。そのスイッチが入った時の走りを直線にもってこれれば、爆発的な脚を使うことができるのだろう。
類いまれな能力に加え、自在性という新たな引き出しを手に入れた
アブレイズ。重賞初制覇を飾った得意舞台で、今度は当時とはまったく違う走りを見せたうえで、完全復活を果たしてくれるのではなかろうか。
(元広告営業マン野郎・鈴木邦宏)
東京スポーツ