13日の阪神6Rで
バスラットレオン(牡3歳、栗東・矢作)に騎乗した
古川奈穂Jが、デビュー12戦目で初勝利を挙げました。20歳の彼女にとって一生忘れられない瞬間に立ち合えて、私自身も競馬記者冥利(みょうり)に尽きます。ゴールの瞬間、今週から入場再開となって駆けつけたファンからは、自然と拍手が起こりました。
「能力のある、チャンスのある馬に乗せてもらいましたし、チャンスをくださった馬主さん、矢作先生、厩舎の皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです」
不安から早仕掛けになりそうだった時には、周りの先輩からの「馬の力を信じて」というアド
バイスを思い出して、冷静になれたそうです。単勝1・9倍の圧倒的1番人気というファンの支持に応える勝利。「まだまだ先生に恩返ししていかないといけませんが、まず1つ勝つという恩返しはできたのかなと思います」と、喜んでいた姿が印象的でした。
今月20日は矢作師の60歳の誕生日。少し早いですが、師の目の前で決めた自厩舎の馬での初勝利は、最高の還暦祝いになった気がします。と言うのも、指揮官は来週末に
ラヴズオンリーユーのドバイ遠征のために出国予定。今月、生で彼女のレースを見られるのは、今週が最後だったからです。「模擬レースも俺が見にいった時だけ勝った。そういう勝負強さがある」という師の言葉通りでした。
彼女が競馬学校の学生だった頃、師の誕生日祝いに、真ん中に「匠」とデザインされた手作りの肩たたき券を渡していた姿を思い出しました。当時は、10代の心優しい女の子でしたが、無事にデビューを果たし、レースで師匠に白星を届ける姿に、当時のあどけなさはありませんでした。勝負の世界で生きていくプロとしての決意、頼もしさのようなものを感じました。
「まだまだ競馬の内容を良くしていかないといけないですね。これで少しは落ち着いていけると思うので、自分の技術面をもっと意識していきたいです」
そう話す瞳の輝きは、さらなる成長を予感させました。「
コントレイルのG1並みに緊張したよ」と笑っていた矢作師も、「ペースを落とし過ぎず、上手に乗ったと思う。(ケガで留年して)人より1年長くやって、苦労しているところも見てきた。自分の馬で勝たせられて良かった。技術的にはまだまだだけど、向上心はあるので、一歩一歩、成長してくれれば。今後も
バックアップしたい」と全面サポートを約束していました。
確かに師の言う通り、技術的には粗削りの原石なのかもしれません。私は、
古川奈穂騎手は、その原石が光り輝くまで磨き続けられるジョッキーだと思っています。これからも、ケガには気をつけて、コツコツと努力し、一つずつ白星を積み重ねて、ファンに愛される騎手を目指していってほしいものです。(デイリースポーツ・大西修平)
提供:デイリースポーツ