昨年の12月初旬のこと。音無調教師が「
アリストテレスの次走をどうしようかと悩んでいるんだ」と打ち明けてきた。
「重賞を勝っているわけではないから、ハンデもそこまで背負わないだろうし、中京に勝ち鞍もある。オーナーも中山は走らせたくないような感じだったから…」と
アメリカJCCの前週に施行される
日経新春杯に出走させたい様子。しかし、
日経新春杯では
アリストテレスに必要不可欠なピースであるルメールのスケジュールを確保することができない。つまりは“ルメール・
ファースト”を貫くか否かで悩んでいたのである。
最終的に“ルメール・
ファースト”を貫いたAJCC参戦に陣営が自信満々だったかといえば、決してそんなことはなく、個人的には伏兵の域を出なかった
菊花賞(2着)のほうがむしろトーンは高かったように思う。その理由は
菊花賞のときのような迫力ある動きを調教で見せられなかったから。そう、仕上がりの問題だった。
「
菊花賞の疲れとかではなく、単純に乗り込み量が少し足りなかった。まあ、あの時点でビッシリとつくることはできないから仕方がないんだけどね。そんな状況に加えて、あの不良馬場。大丈夫か…と思っていたのが正直なところ」とは当時を振り返る音無調教師。しかし、ご存じのように
アリストテレスは横綱相撲ともいえる内容であっさりと初重賞制覇を飾ってしまった。
「改めて強いと思った。同時にステイヤーとしての資質の高さを見た気がしたね。2200メートルのレースではあったけど、あの日の馬場で積極的に動き、押し切るには相当なスタミナが必要。
天皇賞(春)でも勝負になるという自信にもなった。やっぱり晩成血統なんだなあと。成長力がすごいよね」
順風満帆なように見えて、実は様々な思いが交錯していた
菊花賞→AJCCへの3か月間。その過程を思えば、今回のGII
阪神大賞典(21日=阪神芝内3000メートル、1着馬に5月2日
天皇賞(春)優先出走権)へ向けての2か月間はまさに順風満帆。追い切りの動きは前回よりも明らかにシャープになり、
菊花賞時をほうふつさせるフットワークを見せている。
「
コントレイルに(3000メートルの)距離適性がなかったのもあるんだろうけど、あの馬をクビ差まで追い詰めたのも事実だからね。崩れたのは
プリンシパルS(6着)だけという堅実なタイプだし、スタミナがあって折り合いもつくから距離延長は大歓迎。次につながる競馬を期待しているよ」
音無調教師が今回は自信満々なのはもちろん、手綱を取るルメールが関西主場の重賞に騎乗するのは1月16日の
愛知杯以来。関東圏を優先しているこの鞍上が
アリストテレスの“特別感”を演出していることも追記しておきたい。
(栗東の本紙野郎・松浪大樹)
東京スポーツ