桜前線が長い旅路を終えて日高に春をもたらした5月、青空を映した水田では、小さな稲苗たちが初めて受ける陽の光を喜んで風に揺れていた。例年になく暑さが厳しかった夏を乗り越え、瑞々しく実った稲穂はちょうど収穫時期を迎えている。もうひと月もすれば道内各地で雪の便りが届き始めるが、それはホッカイドウ競馬のシーズン閉幕の合図でもある。この重賞は
道営記念の前哨戦。サラブレッドたちの目に映り込む黄金色は闘志で燃えている。
主役となるのは昨年の道営チャンピオン・
クインズサターンだろう。前走の
旭岳賞では、王座奪取に一番近いと目されていた新興勢力
サンビュートを競り落とし、
赤レンガ記念で首を擡げた不安を払拭するとともに、改めて威厳を示した。今回も実力馬揃いとはいえ、この馬にとってはそのほとんどが負かしたことのある馬たちである。ここを勝って王座防衛をより確実なものとしたいところだ。
ただ一頭、麒麟児とでも言うべき
チャレンジャーがいる。重賞初挑戦となる
グリントビートだ。昨年から続いていた連勝記録は9で止まったものの、2着に負けた前走とて、上がりの速い競馬で踏み遅れてしまったというもので、力負けではない。Cクラスのほとんど最下級の条件から無敗でAクラスまで到達するというのは並の馬ではできない所業であり、タイムや勝ちっぷりを合わせて考えても伸びしろは相当に大きい。これまでとはメンバーレベルの桁が違うのは承知の上。当然、高い壁に跳ね返されてしまうケースは想像の範疇だが、リスクの大きさを補って余りある魅力に満ちた馬である。大金星の可能性に賭けたい。
南関東からの転入2戦目の前走、
旭岳賞3着で門別の重賞にもメドを立てた
リコーワルサー、長欠明け叩き2戦目で前進が見込める
ルールソヴァール、マイペースで行ければ渋太い
リンノレジェンドなどなど、他のメンバーも彩り豊か。もし仮に3連系の馬券を買うなら、相手は手広く流さざるを得ない。
(文:競馬ブック・板垣祐介)