あれは1週前の美浦トレセン。上がり運動を行う
サトノレイナスの姿をしばし遠目で追っていた某トレーナーが、やがてほほ笑みながらこうささやいた。
「
グレートマジシャンが出ていなければ、今年のダービー(30日=東京芝2400メートル)はきっとレイナスを全力で応援していたんでしょうねぇ」
声の主は
宮田敬介調教師。開業2年目、自身初のGIを誉れ高き
日本ダービーで迎える幸運のホースマンだ。彼にとって
サトノレイナスを管理する
国枝栄調教師は、調教助手のころから最大級の敬意を示す“ザ・マスター”。頂上決戦は鞍上ルメールをさらわれた形だが、そこに恨み節が出るはずもなかろう。
とはいえ、だ。聞けば秘める野心は、悲願成就を期す師匠にも負けていなかった。
「ダービーに導いてくれた馬にも関係者にも感謝の気持ちでいっぱいです。でも参加するだけじゃなく、それは結果で示したい」は手応えをつかめばこその言葉。振り返れば前走の
毎日杯は「減った馬体の回復を主眼に何とかたどり着いた」状況であった。にもかかわらずレコード決着(1分43秒9)でクビ差の惜敗。さらにイン伸びの馬場を利した
シャフリヤール=川田の好騎乗を鑑みれば、まさに負けて強しの一戦なのだ。加えて…。
「前走まではこの体でよく走れるなと思わせるルックスでした。それが一気に
パワーアップして、今は数字以上に体に張りがあり、この中間は乳酸の数値まで上がりにくくなった。秘めたポテンシャルにやっと体が追いついてきた印象です」
指揮官が目を見張るのは、予測をはるかに超える成長曲線。それもそのはず。晩成血統らしく、ソエやトモの緩さに悩まされたデビュー時とはもはや別馬。前走からわずか2か月で「内からみなぎるものが規格外になってきて、見ているこちらが怖いくらい」の変貌を遂げている。
「追うごとに
テンションが上がったこれまでとは違います。気性は成長してきたし、血統や体形から距離適性も秘めている。ダービーは関東馬でワン
ツースリーをできたら。この馬と一緒に厩舎も
キャリアアップできたら」(同師)
ひそかに描くのは、師匠が送る
サトノレイナスとの直線の叩き合い。人も馬もあれよあれよの夢舞台だが…。ここが“出藍の誉れ”になろうとも、驚かない準備は当方にもできている。
(美浦のラストダービー野郎・山村隆司)
東京スポーツ