ソフトな語り口と分かりやすい解説で人気の野球評論家・掛布雅之氏は現役時代、阪神の中心打者として一時代を築いたことはよく知られている。
だが、もともとは
ホームランバッターというよりも
アベレージヒッター。それまで4番を務めた田淵幸一氏の移籍によりホームランを狙う
スタイルに自ら変えていったらしい。直後の1979年に48本打ってホームラン王に輝くのだから、その素養があったということなのだろうけど…。
どちらかといえばプロとしては小柄な部類の掛布氏には体の負担は大きかったらしく、その転換が引退を早めたのでは、とも言われている。適性からは外れているとしても、一度成功を収めると、元に戻すのはなかなか困難ということなのだろうか。
宝塚記念(27日=阪神芝内2200メートル)に出走する
アリストテレスの競走馬人生の
ハイライトは、今のところ昨年の
菊花賞であることに異論はないだろう。無敗の3冠馬となった
コントレイルをクビ差まで追い詰めた走りは、敵陣営の心胆を寒からしめ、一躍スターホースの階段を駆け上がるに十分な内容だった。だが、その激走がその後の路線選択に微妙な影を落とすことに…。
年明けのアメリカJCCを快勝した後、陣営が選択したのが3000メートルの
阪神大賞典。この経緯について蛭田助手は「同じ距離の
菊花賞でいい走りをしていたし、GIの
大阪杯よりはメンバーレベルが落ちることもあって。ただ、ああいう結果(7着)に。その後、
大阪杯を見た時に“こっちに使うべきだった”と感じました。距離も2000〜2400メートルぐらいがいいし、相手なりに走れるタイプの馬ですからね」と振り返る。
そして2番人気に推された3200メートルの
天皇賞・春でも4着止まり。どうにも煮え切らない結果に、音無調教師は「ジョッキーはうまく乗ってくれたけど、馬が応えられなかった。やはり距離が長かった」と結論付けるしかなかった。ならば“適条件”に挑むこの
宝塚記念こそが、
アリストテレスの真の正念場なのだ。
蛭田助手は現在、
ピクシーナイト(
シンザン記念勝ち)と“2頭持ち”なのだが、
ファーストコンタクトでは断然
ピクシーナイトのほうが走る印象だったという。
「息遣いが悪くて、デビュー前にまたがった時は“これは走らない馬だな”と思ったくらい。ただ今は本当に充実しています。アメリカJCCのころは“重たそうだな”という感じだったけど、そこから一走ごとに良くなってきて、今は走り方、体つきとも“ほぼ完成したかな”といった雰囲気。あとはGIレベルでやっていけるかどうかに尽きますね」
唯一の心配が長距離戦を多く使ってきたことによる弊害で、「油断してペースを落とさないかが心配。
阪神大賞典のときはかかったけど、本来はがむしゃらに行くタイプではないですからね」と話すが、そこは今回初めてコンビを組むレジェンド・
武豊の腕の見せどころだろう。
ここ2週の調教にまたがり感触を確かめたレジェンドは、1週前追い切り後に「先週よりだいぶ良くなっていたね。攻め馬はそんなに動かないけど、大きな癖はないし、体調の良化も感じる。
菊花賞の印象が強いけど、今回の距離が合うイメージはあるし、能力は高いからかみ合えば一発もあるでしょう」と好感触を伝えている。
「GIメンバー相手に、2200メートルでどこまでやれるか見てみたい」と期待を込める蛭田助手。本格化の時を迎えた段階で適条件に戻り、巻き返しを図る
アリストテレスの競走馬人生は、これから
ハイライトを迎える気がしてならない。その幕開けとなるのがこの
宝塚記念だ。
(元広告営業マン野郎・鈴木邦宏)
東京スポーツ