ちょうど1年前、
宝塚記念を目前に控えた中竹厩舎への突撃取材を敢行した私は、
小倉大賞典1着→
大阪杯4着と上昇気流に乗り始めていた
カデナと、自信に満ちあふれていた当時の陣営の雰囲気にも押され、紙面に「
カデナのGI制覇があるぞ」と高々と歌い上げた。
しかし、レース当日の10R前に阪神競馬場を襲った突然の豪雨が、私と陣営の夢を粉々に打ち砕いた。11R
宝塚記念は稍重発表ではあったが…。今、レースを見返しても、馬が脚をかき上げるたびに飛び散る泥の塊が、当時の実際の馬場状態を雄弁に物語っている。
一瞬の切れ味を武器とする
カデナにとってはあまりに酷な馬場。陣営が受けたショックも大きかったのか、今年も昨年同様、
中山金杯→
小倉大賞典→
大阪杯というローテーションをたどりながらも、その後は
宝塚記念ではなく、梅雨が本格化する前に開催される
安田記念へ。「体調が上がるこの時期に、少しでもいい馬場状態で競馬をやらせたい」という陣営の祈りにも似た願いを強く感じる選択だった。
安田記念当日は陣営の思惑通り、良馬場での開催。4歳春の
マイラーズC(14着)以来のマイル戦ということもあってか、屈辱のシンガリ人気となったが…。その評価を覆す0秒5差6着に善戦。それも4角最後方から上がり33秒2で上位に迫る中身を伴ったレース内容。もちろん、直線でぽっかり空いた内を突いた名手・
武豊の
ファインプレーもたたえるべきなのだが、少なくとも7歳にしてなお健在をアピールするには十分なものだった。
カデナを手塩にかけて育ててきた江藤厩務員は「前走時はすごく状態が良くて、攻め馬もバリバリできていた。最後はすごい脚を使っていたよね。ジョッキーの手腕もあって一瞬の切れを生かす、あの馬の競馬が完璧にできていた」と満足げに振り返る。
安田記念の中身のある走り、そしてレース後の
カデナの状態を確認したうえで、陣営は急転直下、中2週での
グランプリ参戦を決断したーー。
かつては
京都2歳S→
弥生賞と重賞を連勝し、世代屈指の素質馬として将来を嘱望された
カデナだが、その後は「馬は2歳時より明らかに良くなっていたはずなのに結果が出ない」(中竹調教師)原因不明の低迷期が長く続いた。5歳の春ごろからようやく復調の兆しを見せ、復活勝利を挙げたのが6歳冬の
小倉大賞典。そこからは一進一退の成績が続くが、節目節目でさすがの走りは見せてくれている。
「疲れもなく元気いっぱいだし、あまりにも具合がいいから使うことになったくらいなんだ。ここにきて馬がやる気になっているのを感じる。7歳にしてやっと能力と体がかみ合ってきた感じがするね」と今回の電撃参戦の理由を話す江藤厩務員は「一瞬の切れ味が売りの
カデナには直線の短い阪神内回りは一番いい舞台だと思っているんだ。多少馬場が悪くなってもこなせるようにはなっているけど、やはり良馬場でやれるに越したことはない。今週末は天気も何とか持ちそうだから楽しみだよね」と期待を込める。
過去最高の状態で最高の舞台(第62回
宝塚記念=27日、阪神芝内2200メートル)に臨む
カデナ。陣営の悲願がかなって初のGIタイトル奪取となれば…。それはとんでもない大波乱劇を意味する。
(元広告営業マン野郎・鈴木邦宏)
東京スポーツ