各記者が担当厩舎を持ち、毎週の取材を行っているトレセンチーム。コアな読者の方にはもしかするとバレバレかもしれませんが、各記者には“担当厩舎愛”なるものがあって、深く取材している分、心の奥底ではかなりえこひいきしていると思います。逆に担当外の厩舎だと、メジャーな馬でもちょっと遠く感じたり…って、それはもしかしてポンコツ記者として名高い私だけ? とにかく、そんな理由から私はある馬についてずっと間違ったイメージを持っていました。
タイムフライヤー。彼は今年の2月まで、言わずと知れた超名門・松田国英厩舎の管理馬でした。2歳時には芝でGI(
ホープフルS)を制した馬が、ダート路線転向後も重賞戦線で活躍し続けている――。当時からとても魅力的な馬と感じてはいましたが、担当外ゆえの勝手な妄想で“取っ付きにくい感じで性格はちょっと怖そう”と思っていたんです。
そのイメージが覆されたのが4月のある日。解散した松田厩舎から、私が担当させていただいている
橋口慎介厩舎に転厩してきたのが
キッカケです。初めて馬房の前に立ち、間近で見た彼は、マイペースで穏やかで人懐っこい、かわいさにあふれた馬で、担当になった五十嵐助手も「オンオフがハッキリしていて、普段はすごく愛らしいんですよ」と笑顔で紹介してくれました。
「こんなにすごい実績のある馬を、橋口先生が“お前に任せる”って言ってくれて、本当にうれしかった。転厩馬で結果を出すのは厩舎にとって最大のアピールにもなりますからね。気を引き締めてやっていきたい」
当時の五十嵐助手の前向きな言葉の裏には、もし結果を出せなければ「転厩してから走らなくなった」と言われてしまうかもしれない、底知れないプレッシャーもあったかと思います。そこから五十嵐助手は以前の担当者さんにもお話を聞いたりしながら、少しずつ
タイムフライヤーと心を通わせていかれました。
しばらくしてから調教の感触をお聞きしにいくと、目を輝かせながら「思っていた通り、いや、それ以上に素晴らしい馬ですね。もう6歳でキャリアもあるベテランなのに、こちらが求める課題をひとつずつ吸収しようとしてくれる。環境や調教メニューが変わったことで、いろんな意味で以前とは別の馬になるとは思いますが、松田厩舎が大事にしてきたものを守りながら、より高みを目指していけると思います」と熱く口にしていたのを昨日のことのように覚えています。
それだけに転厩後2戦の結果(
かしわ記念9着、
マリーンS12着)は、五十嵐助手にとって相当にショックだったようで…。
「たくさん思うところはありますが、言い訳はできません。特に前走はトップハンデ(58キロ)でも1番人気に推してもらったのに結果的に惨敗してしまった。(騎乗した)ルメールさんも追い切りではすごくいい感触を持ってくれていたんですが、レース後は“こんなことになるなんて…”と信じられない様子でした。あんなふうにエキサイトしてしまう危うさはあったんですよね。とにかく反省の多いレースでした」
幸い、GIII
エルムS(8日=函館ダート1700メートル)に向けたこの中間の調整では滞在効果もあり、精神的にも身体的にも確実に上向いているそう。
「昨年のこのレースでは他馬が苦しくなる中、3コーナーから持ったままで上がってきて、見事に勝ち切った馬ですから。あの時のように折り合って競馬ができれば絶対に巻き返せるはずです。調教でも折り合いには気をつけていますし、彼もそれに応えようとしてくれている。この馬はスーパーホースだと僕は思っていますから」
担当厩舎の管理馬になってくれたことで、五十嵐助手を通し、よりその魅力が見えてきた
タイムフライヤー。6歳でもまだまだ成長し続けようと日々努力している彼を、応援しないわけにはいきません!
(栗東の転トレ記者・赤城真理子)
東京スポーツ