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九州産馬ヨカヨカの重賞Vにまつわるドラマ 幸英明と谷八郎師の深い縁

デイリースポーツ
  • 2021年08月26日(木) 14時00分
 人馬の深い“縁”を感じる歴史的勝利だった。先週の北九州記念を制したヨカヨカ。九州産としては16年ぶりのJRA平地重賞制覇。また、熊本県産としては史上初の快挙だ。ゴールの瞬間、ファンは大きな拍手で人馬を祝福。レース後のインタビューで薩摩隼人・幸英明騎手(45)=栗東・フリー=は目を潤ませながら言葉を紡いだ。

 「僕の師匠である谷八郎先生が去年、亡くなって…。先日、一周忌があったので…。その関係もあって、きょうはすごくうれしいです」

 幸は鹿児島県鹿屋市出身。馬に縁のある家庭で育ったわけではなかった。「鹿児島の牧場には九州の馬主さんや、オーナーが多くいらしていて。八郎先生は当時、“九州産といえば谷”といわれるぐらい九州産馬を多く預かっていました。競馬学校に入ってから、先生が“鹿屋なら、ウチにくれ”っておっしゃってくれたと聞きます。同期で一番早く所属する厩舎が決まったんです。人も馬も九州産に愛着があったのかな」と所属に至った経緯を振り返る。

 谷八郎厩舎所属として94年3月に騎手デビュー。どんな師匠だったのだろうか。「(田原)成貴さんには厳しかったと聞きますが、僕がデビューした時は優しい人でした。レースについても、“自分でしっかりと考えなさい”というタイプ。こう乗るように、と指示をされた記憶がない」。兄弟子には田島良保、梅田康雄、田原成貴、横山雄一、山本康二らがいる。幸は最後の門下生だった。

 今年の5月16日にJRA1500勝を達成した幸だが、障害レースには7回騎乗している。96年の競走中止(タイセイシンボリ)以降、障害レースには乗っていないが、1勝、2着2回、3着1回の成績を残す。「先生からは“根性がつくように”と。“障害を怖がるようならジョッキーを辞めた方がいい”と言われて障害に乗りました。でも、落馬して、成貴さんが“危ないから乗せないで”と言ってくださって。それ以降は平地しか乗っていません」と懐かしそうに語る。

 師弟の絆を大切にし、所属ジョッキーを信頼する人情派だったという。「僕のことを見てくださったある馬主さんが、先生にこう言ったそうです。“いいお弟子さんを持ちましたね”と。すると先生から“弟子じゃない。息子です”と怒られたって」。そんな幸が慕った師は98年2月28日に定年引退。デビューして4年目のことだった。「わずか4年後にフリーに。すごく不安でした。そんな時に八郎先生の息子さんである潔先生が“フリーでやってダメだったら面倒を見てあげるから”と言ってくださったんです」。父・八郎師から子の潔師へ-。谷家との縁は深く、長く続いた。

 昨年8月に亡くなった師匠の一周忌が行われたのはレース10日前のことだった。「不謹慎かもしれませんが、“ヨカヨカを勝たせてください”とお願いしました。その一周忌のあと、落馬(14日の小倉12R)したけど、無傷だったんです。八郎先生が助けてくださったのかなと感じました」。天からの加護を感じたという。

 谷潔厩舎の勝ち鞍は幸が73勝(25日現在)と断トツ。2位(小牧太)を55勝も引き離していることからも、強固な結びつきなのが分かる。「潔先生の馬に最も乗せてもらっていますが、僕は先生の馬で重賞を勝てていなかった」。何とかして報いたい-。特別な思いで挑んだ北九州記念だった。

 「最近、熊本は地震や水害もあって、生産者さんも大変なことが多かった。八郎先生、潔先生とのつながりがあって、気持ちも高まっていた。今回は色々な思いが詰まったレースでした。潔先生も“ヒデアキで重賞を勝てて良かった”と言ってくださって…」

 師匠が亡くなるまで、幸は毎年のように家を訪れたという。「遊びに行かせてもらっていましたね。金曜に行くと、競馬新聞の僕の名前に色でラインを入れてチェックしてくれているんです。土曜のレースが終わると、母親に“きょうのヒデアキはこうだった、ああだった”と連絡があったそうです。日曜もまた同じように…。本当にありがたかったなと思いますし、感謝しかないです」。点と点が線で結ばれてひとつのドラマが生まれる。天国にいる八郎師も“いいよ、いいよ”とほほ笑みかけていることだろう。(デイリースポーツ・井上達也)

提供:デイリースポーツ

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