NHKの土曜ドラマで今冬、地方の女性騎手を主人公にした「風の向こうへ駆け抜けろ」が放送されることが発表されました。さらに来春には競馬学校に集った少年たちの青春アニメ「群青のファン
ファーレ」の放送も決定。これにはアニオタとして大歓喜…いやいや、「競馬記者の端くれ」として素直にうれしいニュースでした。
騎手を目指す若き才能がまた増えると思いますし、それに伴い女性騎手もこれからどんどん増えていきそう。競馬界がもっともっと盛り上がっていく予感がします。
現在、
JRA所属の女性騎手は藤田菜七子、
永島まなみ、
古川奈穂さんの3人。彼女たちの活躍は毎週のように
メディアで取り上げられているので、子供たちが“憧れ”を持つ機会はたくさんありますよね。実際、未来の
JRA騎手を目指す競馬学校の騎手課程には5人の女性が在籍中。女性騎手の裾野は確実に広がっています。
「永久2キロ減のルールも含め、ナナちゃん(藤田菜七子)が女性騎手の新しい道を切り開いてくれたよね」
笑顔でそう話してくれたのは梅田厩舎で番頭格を務める前原玲奈助手。競馬ファンの皆さんには有名ですよね。旧姓西原、元
JRAの女性騎手です。玲奈さんは競馬学校騎手課程の16期生。530人が受験し、最終的に合格したのはわずか10人という狭き門を、たった一人の女性としてくぐり抜けました。実家は佐賀県で家具店を経営。競馬とは全く縁のない家庭に生まれた玲奈さんが、当時とても珍しかった女性騎手をなぜ目指すことになったのでしょうか?
「昔から動物が大好きで、将来は何か動物に関わる仕事がしたいって漠然と思ってたの。最初はそれこそ獣医さんとかを考えていたんだけど、当時“花の12期生”って呼ばれてた競馬学校12期生に女性が3人いるっていう記事を見て、“騎手って女性でもなれるんだ!”ってビックリしてね。もともと体を動かすのが大好きだったから、私も騎手になりたいなあって受験してみたんだ」
当時は「本当に騎手になれるとは思ってもみなかった」と玲奈さん。「幼稚園生が“ケーキ屋さんになりたい”とか“お花屋さんになりたい”とか夢見るのと同じレベル。憧れって感じで、まさか合格できるなんて」と振り返ってくれました。
1次試験は身体測定に加え、基礎体力のテストがあったそう。そこで530人が23人にまでふるいにかけられ、2泊3日の泊まり込みで行われる2次試験で最終的に10人に…。生活態度、性格、食事量、馬の乗り方、さらには両親の体形まで見られるとのことで、途中で辞退してしまう人も多かったのだそうです。
「競馬学校に入ってからは朝5時に起きて、まずは体重測定。そのあと馬のカイバをつけたり、寝ワラ上げをして、馬装をして、馬に乗って、馬を洗って、お昼ご飯を食べて…。午後は学科とトレーニングって感じの一日だったかな。私は地元が佐賀だから簡単には帰れないし、ホームシックにもなって寂しかった。どうしてもつらくなったときは馬房に行って、馬に話を聞いてもらってたよ」
同期は全員男子。いざ競走馬に乗ると体力や腕力の違いに劣等感を感じることも多かったよう。「それでも騎手でいるうちは、女だからって負けてたまるかと思ってた。女の子扱いされるのが嫌でたまらなくて“私のことは男だと思ってください!”ってむちゃなことを言ったりしてね」
同じ悩みを、見習い騎手として栗東に来ていた菜七子さんから相談されたこともあったとか。
「乗馬のうちはまだ良かったけど、現役の競走馬に乗ってみたら違いました。持っていかれてしまいそうになる。同期の男の子が普通に乗りこなしているのを見ると悔しいし、どんどん自信がなくなってくるんです」
菜七子さんからそう打ち明けられた玲奈さんは、その気持ちが痛いほど分かったといいます。
「無責任かもしれないけど、それでもナナちゃんには諦めてほしくなかった。学校の3年間や騎手になってからの全ての苦労やつらかったこと、それが“初勝利”を挙げられたときに報われるのを知ってたから。あの時の喜びは今でも私の人生の一番。ナナちゃんにも絶対味わってほしくて、そう伝えたんだ」
玲奈さんは「私は後輩に道を作ってあげられなかったから…」と口にします。でも、菜七子さんをはじめ、まなみさん、奈穂さんが、玲奈さんを慕って梅田厩舎を訪れ、彼女たちにしか分からない気持ちを話している様子を見ると、私はそうは思いません。むしろ、未来の女性騎手にも「トレセンにはこんなにすてきな騎手の先輩がいるよ」と声を大にして伝えたい気持ちでいっぱいです。
(栗東の転トレ記者・赤城真理子)
東京スポーツ