話は8月11日にさかのぼる。
北九州記念で4年ぶりの重賞制覇を狙う
ジャンダルムが1週前追い切りのため、初コンビとなる福永を背に栗東坂路に登場。1頭だけ違う脚色で坂を駆け上がると、4ハロン49.4-11.8秒を表示し、記者席が大きなどよめきに包まれた。
1週前に強く負荷をかけ、当週は軽めに流す程度。これは池江厩舎のいつもの調教
スタイルなのだが、それにしてもこのタイムはまさに破格。仰天した私は調教終了を待って担当の星井助手の元へ。話をうかがったところ、手綱を取った福永はそのすさまじい走りに、驚きの余り笑いだしてしまったのだという。
「笑いながら“すごく乗りやすい馬”とも言ってくれました。実は春先に中山(
春雷S)で勝って以降、ずっと好調のままなんですよ。今回も柔らかみがあって、過去最高のデキと言ってもいいくらいですね」
春雷Sの2馬身半差圧勝に加え、この抜群の調教も評価されたのか、
北九州記念ではGI馬
モズスーパーフレアを押さえ、1番人気に推された
ジャンダルム。当然、私も大きな期待をもって馬券を買い込んだのだが、まさかスタートでの出遅れが致命傷になるとは…。
レース後に
パトロールフィルムを確認すると、ゲートが開いた瞬間、しゃがみ込むような格好に。「ゲート内で暴れて、トモを落としての駐立になった」とは福永で、
北九州記念7着はゲートですべてが終わってしまった結果にすぎない。
陣営も当然のように中2週での
セントウルS参戦を決断する。間隔が詰まることから中間は手控えた調教内容でも、直前は抜群の切れ味を見せて相変わらずの好調ぶりだったはずが、何とレースではまたしても大出遅れ。現地でレースを観戦していた私はゲートが開いた直後に思わず天を仰ぐしか…。いや、天を仰いでいる場合ではない。この
セントウルSの直線にこそ、
ジャンダルムのすごみが凝縮されているのだから。4角13番手から最速上がり32秒6で猛然と追い上げ、勝ち馬
レシステンシアとはわずか0秒2差の4着。その驚異的な末脚はGI級のポテンシャルの証明としていいのではないか。
ジャンダルムを入厩以来、手塩にかけてきた星井助手は「初めてまたがった時から、その乗り味の良さに驚かされました。乗っていてもまったく疲れないんですよね」とその出会いを振り返る。
「若いころは父方の血が強く出ていたのか、跳びが大きくて長い距離もこなしていたんですけど、成長するにつれ
母ビリーヴ(ス
プリントGI2勝)の影響が強くなってきて、走りもピッチ走法に変わってきました。しばらく結果が出なかった時期は距離が持たなくなっていたんだと思います」
マイル路線でしばらく低迷していた
ジャンダルムは短距離路線にシフトして軌道に乗り、前出の
春雷Sでス
プリント初勝利。さあ、これからという矢先に出てきたのが「ゲート難」という悪癖というわけだが…。もちろん星井助手も手をこまねいているわけではない。
この中間はゲートの駐立にフォーカスした調教を徹底。「ゲートで縛る」など、あらゆる工夫を施し、悪癖克服へ向けて全力を注いでいる。
ごくごく普通にゲートを出てくれて、前走で見せた鬼脚を再現できれば…。
ジャンダルムは最高峰の舞台(
スプリンターズS=10月3日、中山芝外1200メートル)でも何らヒケを取らない走りを見せてくれると信じている。
(元広告営業マン野郎・鈴木邦宏)
東京スポーツ