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【天皇賞・秋】カデナを応援したくなる人情ならぬ馬情物語/トレセン発秘話

東京スポーツ
  • 2021年10月29日(金) 20時54分
 競走馬にとって最も大事なのは「気持ち」だという。どれほど強い馬でも、気持ちがかみ合わない時は、思わぬ結果に終わってしまう。1番人気馬の受難(6、10、13着)が続く今秋のGIも、その影響がゼロとは言えないだろう。

 そこで今週は「気持ち」をテーマに取材に向かった。記者のアンテナに引っ掛かったのはカデナ。馬を見て驚いたことはあっても、馬房を見て驚いたのは今回が初めて。そう言って差し支えないくらい、カデナの馬房はウッドチップがきれいに敷き詰められていた。まるでテンピュールのマットのようにフカフカである。

「あぁ、これ? 馬房は一日の大半を過ごす場所だから、少しでも気持ち良く過ごしてもらおうって思ってさ。まぁ、馬が前かきのひとつでもすれば、グチャグチャになるんだけどね(苦笑)」

 照れくさそうにこう話してくれたのはカデナを担当する江藤厩務員。今はどの厩舎もきれいに整理整頓されているとはいえ、すぐに散らかる敷料まで“ベッドメーキング”の手間をかけているとは…。「自分がそうしたいからやっているだけ」と口にしながら、熊手で丁寧にウッドチップを整えていく姿は、見ているこちらまで気持ちが温かくなる思いがした。

 そんな心優しきホースマンのモットーは「馬に信用されること」。暇があれば顔をなでたり、一緒に遊んだり、できる限り触れ合う時間が長くなるよう心がけている。今では江藤厩務員のバイクの音がするだけで、カデナは構ってとばかりに“フーン”と鳴くそうだ。

「もちろん、甘やかすだけじゃなくて、怒る時はしっかり怒る。安心感を与えるような信頼関係を築くこと。その積み重ねが仕事の安全にもつながると思うんだ」

 カデナがここまで大きなケガなく競走生活を続けてこれたのも、こうした陰の努力が一因となっているのだろう。

 無論、情だけで勝てるほど競馬の世界は甘くはない。江藤厩務員はカデナのレースに向かう精神面に微妙な変化を感じ取っている。

「3歳から5歳くらいまでは馬が本当におとなしかったんだけど、そこからまた若い時のうるささが戻って、活気が出てきているんだよね。7歳になって能力と心身とがかみ合ってきた感じがするし、馬が本物になってきたのかな」

 秋の盾(天皇賞・秋=31日、東京芝2000メートル)は2017年16着→19年13着→20年8着と参戦するごとに着順を上げている。グランアレグリアコントレイルなどの強敵相手に大威張りとはいかないが、果たしてどこまで前進できるのか。

 10着と不発に終わった前哨戦の毎日王冠を「ゲートの中で後ろ扉をずっと蹴っていたように気持ちばかりが先行して、体がついていけてなかった」と振り返った江藤厩務員は「ひと叩きして状態はだいぶ良くなっている。道中離されず追走できて、しまいの脚が生きる形なら楽しみはある」

 老いてなお盛んなカデナには、江藤厩務員はじめ、多くの人の思いを力に変えるドラマチックな走りを見せてほしい。

(栗東の馼王野郎・西谷哲生)

東京スポーツ

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