数年前のある2歳重賞後のことだ。関西から遠征してきた断然の人気馬に完膚なきまで打ちのめされた関東馬のトレーナーがこう口にした。
「見た? パドックでも体はユルユル。馬は全然できてないのに、あの勝ち方だからね。西高東低を解消するなら、あんな(高いレベルの)馬が(関東に)普通に入るようにならないと…」
当方が
中央競馬を担当し始めた2000年当時にはすっかり“西高東低”が定着。もちろん、厩舎関係者の技量や熱意に成績ほどの差があるわけではないし、そもそも
中央競馬という枠で考えれば西も東もないわけだが…。関東(=美浦トレセン)に身を置く一人としては寂しさを感じないといったら嘘になる。
ただ、最近は潮目が変わりつつあるのも事実だ。近5年の平地GIの勝利数(東-西)を比べてみると、17年(6-18)→18年(10-14)→19年(6-18)→20年(7-17)ときて、今年(10-10)は肉薄どころか、1998年以来の勝ち越しすら狙える成績だ。
GI勝利数だけでなく、全体の勝利数や獲得賞金で上回ってこそではあるが、ビッグレースの際の関東記者たちの仕事量からも“西高東低”の弱まりを肌で感じている。関係者の努力はもちろん、施設の改善・改修も少しずつ実になってきたということか。残る平地GIは4つ。東と西という見方をすれば、いよいよ「ゴール前の叩き合い」に入った。
さて、今週の阪神JF(12日、阪神芝外1600メートル)にも関東の勝ち鞍を積み上げることが期待されている人気馬が何頭か参戦する。まずは国枝厩舎が送り出す
サークルオブライフだ。前走の
アルテミスSは7番人気での勝利ながらも…。初戦3着はのちに
東スポ杯2歳Sを完勝した
イクイノックス相手のものだし、その後の中山→東京と異なるコース、展開での連勝は競走能力やセンスの高さを十分に証明するものだ。
「前走はスタートを決めて(出遅れ→マクリと大味だった未勝利戦に比べれば)オーソドックスな競馬ができたし、いい内容だったね。本質的にはもっと距離があったほうがいいかもしれないが、阪神の外回りなら大丈夫。
エピファネイアの子でこれからもっと良くなりそうだし、ここでいい競馬ができれば来年が楽しみだね」と国枝調教師は早くもクラシックを見据えている。
そしてもう一頭、
ステルナティーアもクラシックを意識させる逸材で、「前走(
サウジアラビアRC2着)もよく頑張った。勝ったのは男馬(
コマンドライン)ですからね。今回は女馬同士。しっかり力を出せれば」と土田助手は当然、タイトル奪取へ前向きだ。
次週以降のGIでも
朝日杯FSには
ジオグリフ、
有馬記念には
エフフォーリア、
タイトルホルダー、
ホープフルSには
コマンドラインとVチャンスのある馬がスタンバイ。23年ぶりの快挙? 達成に向けて、まずはこの阪神JFで関東が関西の一歩前に出るのか、注目したい。えっ、「予想合戦」では関西の
ナミュールを本命にしてる? いやいや、願望と予想は別ものだし、逆神的な
アシストになることもあり得ますから…。
(美浦の両刀野郎・山口心平)
東京スポーツ