赤城真理子記者がデビュー前から追っかけてきたウマ娘が、いよいよ最高峰のステージへと駆け上がる。たとえファン目線でも、見た、聞いた時間は誰にも負けない。ましてプロ2人のお墨付きとなれば…。第73回
阪神ジュベナイルフィリーズ(12日=阪神芝外1600メートル)で女王に君臨するのはあの娘で決まりだ。
各種スポーツの中で、“競技未経験者”が解説を務めるのはとても珍しいこと。競馬は馬に乗ったこともなければ、普段世話をしているわけでもない記者が「ファン目線でレースを見てきた知識の蓄積」を元に、馬をああのこうのと
ジャッジしなくてはなりません。正直、厩舎関係者の方やジョッキーさんからすれば「何を言ってるんだコイツ」と思われることも多々あるかと思います。でも、記者である以上、腹をくくって“プロの競馬ファン”としての意見を言えるようにならなくては…と思うのです。
以前、長谷川調教師に「競馬記者4年目になっても、パドックでどの馬がいいとか、解説で言っているようなことがあまり分からないんです」と相談したことがありました。普通に考えたら「だからどうした」と言われても仕方ない話なんですけど、長谷川調教師は「全体をなんとなく見てしまっているからじゃないですか? 競馬の知識がない状態でこの世界に入ったのなら、芝とダートそれぞれに“この子を追いかける”って馬を数頭だけ決めて、その子たちだけを特にじっくり見たらいいと思いますよ。普段の運動の様子、追い切りの動き、見た目、息遣い…数頭だったらそれができる。レースごとに必ず微々たる変化があるはずだし、走る時、走らない時の違いが分かるようになると思います。血統的な特徴もね」と丁寧に教えてくださいました。
騎手として、攻め専の助手として、そして今は調教師として、様々な立場から馬と向き合い続けてきた長谷川調教師のお言葉。モヤモヤしていた霧が晴れたような気がして以後、特に注目しようと思った馬については、トレセンでできうる限り張り付いて見るようになりました。
そのうちの一頭でもある
ナムラクレアは、トレセンに入厩したばかりのころ、脚元がそう強くないことを心配されていた女の子でした。なので、デビュー時は他馬と比べてあまり追い切り本数は多くなかったはず。レースでも手前を頻繁に替えたりと幼さをのぞかせていましたが、長谷川調教師が「牧場で乗ってみてホレ込んだ」身体能力の高さを感じさせる走りを見せてくれました。
レースを使われるごとに磨かれてきたと感じるのは彼女の瞬発力。鞍上に
ゴーサインを出されてビュッと伸びてくる時の脚が、どんどん進化しているように思えるのです。でも、これはやはり“馬に乗ったことのない記者”の主観かな? 自信がなかったので裏付けを取るために、あの方を直撃しました。
ナムラクレアの最大の武器はなんですか?
「それはもう、瞬発力ですね。“行け”と合図を出した瞬間の加速はすごいですよ」
やっぱりそうですよね! 欲しかった答えをくれたのは
ナムラクレアに騎乗する浜中騎手です。
ファンタジーSは2着に負けてしまいましたが、「勝ち馬(
ウォーターナビレラ)にうまく乗られてしまって…。決して力負けではないんです」と断言します。その前走では初めてかかってしまったそうなので、1週前には前に馬を置いて折り合いを確認する調教をしましたが、しっかり我慢できていました。
「バネがあって、トモの踏み込みも力強くて、背中は牝馬と思えないくらいしっかりしています。乗ってて気持ちいいんですよね」
長谷川調教師同様、浜中騎手もまた彼女の背中にホレ込んでいる様子でした。
私自身はまだ“プロのファンとしての目”に自信は持てないけれど、取材で裏付けを取ることはできる。一流ホースマン2人をホレさせる魅力を持った
ナムラクレアなら来春の牝馬クラシックに向けてここで飛躍してくれると確信しています。
(赤城真理子)
東京スポーツ